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吸血鬼の初まり〜???年〜

 後ろ手に鉄の錠をかけられ、足枷までされる。そのどれもに魔力を封じるルーンが書かれているようで、簡単に外すことはできないだろう。もっとも、それが普通の吸血鬼ならの話だが。


「このまま議会に向かう」


 一人の吸血鬼が、ヴラドの背中を押した。されるがままに大広間へと向かう。中からは珍しく怒声が聞こえてくる。はんば押込められるように大広間に入ると、リオネルと、クリストハルトが言い争いをしていた。もっとも、声を荒げているのはクリストハルトだけだが。


「リオネル!!最初と話が違うぞ!!」


「何がです?私は最初から、カルディア本体を追っていたのではないのです。ヴラドが、裏で彼らと繋がっていると情報が入ったため、あの作戦を実行したんですよ」


「ヴラドを行かせたのは、彼なら勝算があるからではなかったのか!?そもそも、カルディアを捕らえると言う話は偽りだったのか!?」


「捕らえる?そんなことが、我らにできるとでも?」


 クリストハルトは唇を噛んだ。リオネルは余裕の表情で続ける。


「やり方はどうであれ、結果は出ました。ヴラド・シルヴェストリはやはりカルディアと繋がっていた」


 そう言ってヴラドに自信満々の笑みを向ける。全てはリオネルが仕組んだ罠だ。クリストハルトは議会の中では一番ヴラドを気にかけていたこともあり、利用されたのだろう。彼とドナシアンがいれば、ヴラドは従う。ヴラドを議会から排除するためのリオネルの謀計にレティシアンは弟を売ったのだ。


「てめえ……とことん腐った野郎だな」


「陰で我らを裏切っていたお前に言われたくはないよ」


 ヴラドは舌打ちをしたい気分だった。


「お前らにとってドナは捨て駒ってか?」


「……ヴラド、お前も知っての通り、ドナシアンはお前を殺すためにそばに使わされていたんだ。任務が遂行できなくなっては、死んでも同じことだろう、なあ、レティ?」


 ドナはいつもヴラドと任務に出る時は槍を持っていた。それは隙があればヴラドを殺せと、議会に持たされた特別なものだ。ヴラドはそれを知っていた。ドナがその任務を進んで引き受けたのか、無理矢理やらされたのかは、今となってはわからない。でも、ドナにその任務を遂行する気があるようには思えなかった。あまつさえ彼は暗殺対象である自分に友情すら感じている始末だった。


「……そうだ。弟は任務に失敗した。駒にされて当然だ」


「レティ!!君は知っていてリオネルに加担したのか!?」


「ああ、そうだ、クリストハルト」


 言い切るレティシアンだが、その顔は俯いていて見えない。クリストハルトはヴラドに言った。


「お前もなにか言ったらどうだ!?リオネルが言っていることは本当なのか?お前が私達を裏切っているようには思えない」


「残念だがそう思っているのはクリストハルトだけだ」


 ヴラドは彼の目を見て言った。何かを覚悟したような、そんな真っすぐな瞳に見つめられ、クリストハルトはそれ以上何も言えなくなった。


「フン、罪を認めるのか?」


 リオネルが勝ち誇ったように言う。


「ああ。俺は確かに、カルディアと顔見知りだ。まあ、繋がっていたというのは語弊があるが、アナスタシアとチェレスティーノ、ラドスラフには会った」


 議会が騒然となった。紛れもなくカルディアのメンバーの名前だからだが、やはりそれを知らないのはヴラドと同世代の吸血鬼だけだった。


「ほう。久しいな、その名を聞くのは」


 エヴァルトが口を開く。無表情だが、声音には嬉々としたものが混じっている。


「お前の知り合いか?」


 ヴラドは父親に問う。


「それはアナスタシア本人に聞くといい。が、その前にお前の罪に対する罰を考えようか」


 心底面倒くさそうにエヴァルトが言う。そこへ、ここぞとばかりにリオネルが手を挙げる。


「エヴァルトさん、ここは私に任せてはいただけませんか?私の兵はこやつに無惨にも殺されてしまい、残った兵たちが嘆き悲しんでおります。ですので、是非、こやつの処分を我が兵たちに委ねたいと思います」


「なるほど。それも良いな」


「では……」


「好きにしろ。殺しても構わん。所詮は我が家の恥だ」


 気怠げに言い放つと、エヴァルトは目を閉じてしまった。議会の他のメンバーも何も言わない。ヴラドはリオネルの下卑た視線を真っ向から受け止める。


「犠牲となったドナシアンの分も、私が敵を討ってあげよう」


「クソがっ!!」


 そう吐き捨てて、リオネルを睨みつける。こんな作戦を立て、ドナの命をないがしろにしたリオネルを殺すなら今だ。この場で殺せば、いい見せしめになる。今後誰も自分に手は出さなくなるだろう。ヴラドが行動を起こすために魔力を解放しようとした刹那。大広間の扉が大きく開け放たれ、快活な声が響いた。


「ちょっと待ちなさい!!」


 議会の誰もが予想していなかった出来事に驚く。エヴァルトでさえも目を見開いた。


「これはこれは、アナスタシアじゃないか。それと、チェレスティーノもか」


「ごきげんよう、エヴァルト。相変わらず下衆な遊びをしているのね」


 アナは笑みを浮かべながら言った。何も答えないチェスの顔は相変わらず見えない。エヴァルトは肩をすくめる。


「わたしは関係ない。ガキどもが勝手に揉めているだけだ。そうだろう、ヴラド?」


「フン」


 アナスタシアが笑い出した。


「自分の息子にまで愛想を尽かされたようね。どうかしら?そのあなたの言う出来の悪い息子を、あたしが引き取ってあげてもいいわよ」


 ヴラドはアナを見た。彼女は最初にカルディアに入らないか、と聞いてきた時と同じ顔をしていた。つまり、自信に満ちあふれた顔だ。


「冗談を。おい、あやつを捕らえろ!!殺しても構わん!!」


 エヴァルトが叫ぶと、その場にいた全員が魔力を解放し、戦闘態勢をとる。ヴラドは鉄の錠と足枷にありったけの魔力を注ぎ込んで破壊した。魔力を抑えるルーンは、ヴラドの力を抑えきることができずにあっさりと壊れてしまう。


「んー、なんていい魔力だ!!全部ボクに頂戴!!」


 それまで黙っていたチェスが、突然叫ぶと懐から透明な小さな瓶を取り出した。その瓶の蓋をあけ、口を吸血鬼たちに向けながら何かの呪文を唱える。


「!?」


 魔力の奔流が瓶の中へと吸い込まれ、力をなくした吸血鬼たちはその場に倒れた。


「フフ、安心して。全部盗ったりはしないから!」


 何が起こったのかわからず混乱する議会。その間に、アナスタシアがヴラドの腕を掴んで大広間から連れ出した。チェスはすぐ後をついてくる。


「おい、大丈夫なのか?」


 走りながらヴラドはアナに問う。議会の吸血鬼たちは、それなりに強いものばかりだ。しかし、ヴラドの心配をよそにアナは楽しそうに答える。


「大丈夫大丈夫!あたしたちは強いよ。キミが思っている以上にね!」


 いまいち不安なヴラドだが、ここはついて行くしかない。

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