吸血鬼の初まり〜???年〜
「それで?とりあえず村の中心までいくか」
二人は中央の道を村の中心に向かって歩いた。暗い色合いの外套を着てはいるが、堂々と道の真ん中を歩いていては目立つ。ドナはきょろきょろと辺りを見回すが、ヴラドは至って平然としている。
「よくそこまで普通にしてられるよな……肝が据わっているというか、投げやりというか」
「なんだ、怖いのか?」
「あたりまえだろ!」
ヴラドは首を傾げた。本当になんとも思っていないようで、ドナは改めてヴラドのことをすごいと思った。カルディアに匹敵するほどの力を持っているのに、誰に何をされても文句を言わない。どれだけ痛めつけられたって一人で耐え、どんな理不尽な任務にかり出されても忠実にこなす。それは単に生まれた家のためだとドナは知っている。こんな自分にも父や母、弟にしてやれることはなにかと悩んでいるのだ。多少口が悪いし、性格に難があるが、本当に強い吸血鬼とはヴラドのように気高いもののことを言うのだろう。ドナは怖い反面、とてもヴラドのことを好いて、信頼している。なかなか本人に伝わらないところが惜しいが。
「……なんか変だ」
村の中心が見えてきた辺りでヴラドは急に立ち止まった。考え事をしていたドナは、危うくその背にぶつかりそうになった。
「なにが?」
「いや、ただの感だが……空気が重すぎる」
ヴラドはこういう直感を信じていた。今までにも直感で判断してきたことがあるが、そのどれも外れたことがない。こんな任務のときは尚更だ。
「俺にもわかるように言ってくれよ」
「だから、なんかこう、人為的な静けさっていうか……何かおかしいんだよ」
ヴラドは真剣な表情で言った。鋭い目つきでくまなく辺りを見回している。村の中心は円形の広場のようになっていて、中心に大きな木が一本立っていた。ずいぶん昔に枯れてしまったようで、かろうじて立っていはいるが今にも倒れそうだ。
「あの木の下だ」
リオネルはその木の下でカルディアの一人と会うことになっていると言っていた。はたして本当のことなのか、ここまで来ても確信はない。ヴラドは最大限に神経を研ぎすます。
「あ、あれは……」
ふわっと、闇から湧き出たかのように人影が木の下に現れた。二人ともまったく気が付かなかった。ドナは身を硬くするが、ヴラドは平然としたままだ。
「……この匂い」
どこかでかいだことのある匂いが、その人物から漂ってくる。
「二人とも逃げなさい」
外套のフードを目深に被ったその人物は、どうやら女だ。こんな場所には不釣り合いなほど澄んだ優しい声色だ。
「どういうことです?我々はカルディアと会いに……」
「それは罠よ。ヴラド、キミを殺すためのね」
そいつはヴラドの名前を呼んだ。ドナは驚いて二人を交互に見る。ヴラドは表情を変えないままだ。
「アナ……アンタはカルディアのメンバーなのか?」
「今はその話をしている暇はないわ。この廃村の至る所に封魔の術がかけられている。すこし特殊なものだから、いくらキミでも抜けられない。だから、今すぐ逃げなさい。話は後から聞いてあげる」
「えっ?どうなってるんだ?」
ドナは状況がまったく理解できないでいた。ヴラドの知り合いなのだろうか。しかし、彼女の言う通り確かめる暇はなかった。
「総員、放てっ!!」
廃墟の屋根や、狭い路地から一斉に放たれる閃光。それらが広場を埋め尽くす。
「ガハッ、ハア、ハア……」
光の矢は広場にいたヴラドとドナを巻き込んだ。というより、最初から二人を狙っていたのだった。そのため少し離れたところにいたアナは無事に逃れたようで、枯れた木の上に着地した。
「ッ!間に合わなかった……必ず、迎えに行くから!」
アナはそれだけ言うと闇に溶け込んで消えてしまった。
「ッ、ハア、ハア……クソッ……」
心臓と、頭にさえ当たらなければなんとかなるとはいえ、右腕は感覚がなく、両足は矢が貫通して血が止めどなく溢れる。腹部に刺さったままの矢を左手で掴んで抜去る。掌が焼けるジュ、という音がして生臭い臭いがした。
「……おっと、こいつ、まだ生きてるじゃねえか」
一人の吸血鬼がヴラドに近付いてきて言った。それを合図にまわりに隠れていた兵が姿を現す。総勢五十はくだらない。すべて腕利きの吸血鬼だ。
「それにしてもさすがだな。そのルーンを受けて生きているとは……」
「本当にバケモノだったというわけか」
兵たちの間に笑いが起きる。
「お前ら、リオネルの兵か?」
ゆらりと立上がったヴラドが問う。
「そんなことより自分の心配をすべきじゃないのか?後はお前だけだからな!!」
その言葉に、ヴラドは心臓が止まりそうな思いがした。自分だけ、なはずはない。ドナシアンがいるはずだ。ヴラドはドナがいるはずのところを見た。
「っ!!!!」
そこには見るも無惨な姿になってしまったドナの死体が横たわっていた。光の矢には魔力のあるもの全てに致命傷を与えるための呪がかけられていた。それは決まったルーンを刻んで、呪を唱えながら使用するという単純なものだが、効果は大きい。その矢の直撃を受けたのだろう。ドナの最期は、とてもあっけないものだった。




