吸血鬼の初まり〜???年〜
二人が議会の本部である大広間に入ると、珍しくそこでは言い争いが起きていた。
「その情報がなぜ確かだと断言できるのだ?」
「それは優秀な私の部下が身を挺して情報をつかんでいるからですよ。あなたもご存知でしょう?我々ヴェルドーネがどれほど兵を提供しているかを」
「リオネル。議会は家のことを話す場ではない。この場で我々と言えば、この議会に参加している全てのものをさす。貴殿の兵は議会の兵だ。言葉を改めよ」
「フン。そういうアイゼンシュタイン家の次期当主様は、我ら議会にどんな貢献をされているのだ?中立などとのたまって本来一つであるべき議会を二分しているのは貴殿ではないのか?」
「そんな話をしている場合ではないだろう!!」
もめているのは、レティシアン・バルリオス、リオネル・ヴェルドーネ、クリストハルト・アイゼンシュタインの三人だ。それぞれその家の嫡子にして次期当主だ。この三人はいつも馬が合わない。
「えっと、ただいま連れて参りました」
ドナがおずおずと口を開く。ヴラドは首を傾げた。大広間にはこの三人しかいないのだ。
「ああ、ご苦労だったな、ドナシアン」
レティシアンがねぎらいの言葉をかける。
「いえ。それで、我々に任務ということですが……」
「ちょっと待て。なぜお前たちしかいないんだ?」
ヴラドが当然の疑問を投げかける。
「お前が気にすることではない。言われたことだけやってればいいんだ」
「リオネル、お前は勘違いしている。俺が議会に参加せず、お前らのくだらない任務ばかりやっているのは、服従しているからじゃない。お前の首を吹き飛ばすくらいは二秒でできるぜ」
ぐ、とリオネルは言葉に詰まる。リオネルは正真正銘の七光だ。彼自身にそこまで力はない。しかし、ヴラドの強さもまた噂でしかないのも事実だ。
「ヴラド、正直に答えてくれ」
クリストハルトが腕組みをしながら言った。
「お前が本気になれば、カルディアのメンバーともやり合えるのか?」
ヴラドはニヤリと不敵な笑みを浮かべる。その顔をみたドナは、溜息が出る思いだった。
「カルディアか……直接あったことはないが、少なくともお前らよりは勝機があると思うぜ」
カルディアはバケモノの集団だ。議会ができてから産まれた幼い吸血鬼はそう言い聞かされて育つ。そして、カルディアのメンバー六人を知るものは、決して彼らの話をしない。よってその強さはもはや伝説とかしている。
「そうか。今回、ヴラドにやってもらいたいのは、そのカルディアの一人の捕獲だ」
「捕獲?」
「待ってください!姉さん、それは議会の決定ですか!?」
議会はカルディアとの接触を避けているふしがある。それをわかっていてこの任務をヴラドに押し付ける理由が、ドナにはわからない。
「いや、我らの独断だ。しかし、ここにいるものは少なくとも今の議会に疑問を持っている」
「カルディアの独立から始まった、種族間の争いを止めるには、やはり大本であるカルディアを始末するのが得策」
「それをしない議会に不満を持っている吸血鬼も少なくない。そこで、我らが内密にカルディアのメンバーの一人でも捕らえることができたら、状況は変わるかもしれない」
三人の言っていることはもっともだ。そもそもの元凶を始末してしまえば、吸血鬼が吸血鬼を敵に回す負の連鎖が止められるかもしれない。そう考えているのは、彼らだけではないことを、最前線に出ているドナもヴラドも見聞きしている。
「それは最もな考えだな」
珍しくヴラドが賛成意見を述べた。
「正直、俺たちの世代はカルディアの顔も知らない。カルディア独立後最強と言われてる俺に、この話を持ちかけるのは自然なことだ」
「では……」
レティシアンが期待の眼差しをヴラドに向ける。しかし、ヴラドは厳しい表情でリオネルを見た。
「察するに、この作戦の情報提供者はリオネルの部下なんだろ?それが罠ではないと、なぜ言い切れる?俺に敵対心むき出しなんだぜ?」
その場の空気が一瞬凍った。だが、リオネルがすかさず言い返す。
「心外だな……この情報をつかむのに、私の部下が何人犠牲になったか」
「そこが怪しいんだよお前は……」
「わたしの弟をつければ良かろう?そうすればリオネルも勝手はできない」
レティシアンの提案に誰も何も言わない。沈黙は肯定と取るべきか。もとより、ついて行くつもりでいたドナも、少しホッとした。それからリオネルがつかんだ情報と、大まかな作戦を話し合う、といってもほとんどその場の判断でということだった。
「では、もうすぐ日暮れだ。速やかに行動を開始してくれ。健闘を祈る」
クリストハルトが厳格な表情でそう言って、その場は解散となった。
「本当にここに現れるのか?」
「リオネルさんの部下の話では、今日ここにカルディアの一人を誘き寄せることに成功したとか……」
そこは議会のある城から、だいぶ離れたところにある朽ち果てた村だ。何かの疫病か、人がいなくなってかなり経つのだろう。井戸は涸れているし、畑だったところは雑草すら生えていない。ヴラドとドナは、村の入り口に立って辺りを見回した。今日に限って月もない暗い夜だ。
「フン。そんなの罠に決まってるだろ。大方俺を亡き者にしたいんだ」
「ヴラドを傷つけているのは、リオネルの一派って聞いたんだが、それは本当なんだな」
「……そんな話、どこから聞いてくんだよまったく」
ヴラドは顔をしかめた。確かにリオネルの配下はヴラドに容赦のない仕打ちをするが、それはリオネルが直接指示しているのか、もとより仲の悪いことを知っているリオネルの配下が勝手にやっているのかまではわからない。ヴラドにとってはどうでもいいことだ。




