吸血鬼の初まり〜???年〜
「ドナシアン……」
ヴラドはなんとも言えない感情が、己の中に沸き起こるのを感じた。
「ドナには悪いが、こんなヤツのお守りを押し付けられた時点で不幸が始まってたんだよ」
「そうだ。これは名誉の死ってヤツだ!」
兵士たちが好き勝手なことを言って笑いあう。ヴラドはおもむろに、一番近くにいた兵士の胸倉を捕まえた。
「おい、お前ら、何人で来た?」
突然のことに怯える兵士は、引き攣った笑いを浮かべながら答える。
「五十二だ。全員腕に自信のあるヤツばかりだ!ハッ、残念だがお前に勝ち目はない!!」
「そうか」
ヴラドは少しずつ自分の中の魔力を解放していく。だんだんと濃くなっていく力の奔流は、どこか瘴気にもにた息苦しさを感じさせるほどだ。
「お、おい、放せ!!放せよっ!!」
「……これは名誉の死だ。……俺に殺されるっていうな!!」
いうやいなや、沸き起こる魔力を思いっきり目の前の兵にぶつけた。耐えきれずに、その吸血鬼の体は四方に弾け飛ぶ。血しぶきが舞い、何かわからない赤い塊がそこら中に飛び散り、見ていた他の吸血鬼が息をのんだ。
「お、おい、やり過ぎだろ……?」
「ま、待てよ!これは任務なんだっ!!だから、仕方なくだな……」
誰が何を言ったところで、ヴラドの耳には届いていない。魔力を解放したことで著しく高まった治癒力が、ヴラドの怪我を瞬く間に治した。
「……お前ら、吸血鬼の血がなぜ赤いか知っているか?」
ヴラドは嗤う。顔面についた返り血を手の甲で拭い、その血を舐め取る。その姿は、なぜかとても美しく、妖艶で、不敵だ。誰もが己の死を覚悟した。こんなバケモノには勝てるわけがない、と。
ダアアアンッ!!
議会真っ最中の大広間の扉が激しい音をたてて開いた。同時に部屋中に濃い血臭が広がった。
「貴様!!今は審議中だ!!出てこい!!」
門番をしていた吸血鬼が二人、怒鳴りながら駈けてくるが間に合わない。ヴラドは返り血で足跡を残しながら、大広間に入る。
「リオネル、お前の作戦は失敗だったな!!」
議会のメンバーは一様に息をのむ。ただ、心当たりのあるクリストハルトとレティシアンは青い顔をして動かない。
「なんだね、私の作戦とは?」
リオネルが嫌らしい笑みを浮かべて言った。
「はあ?ふざけるな!!カルディアのメンバーではなく、はなから俺を殺すつもりだったんだろ!?」
「そんなこと、誰が証明するんだね?私は確かに情報を掴んで、お前に頼んだだけだ」
ヴラドは怒りを抑えながら、大広間に連れてきた吸血鬼をリオネルに突き出す。
「コイツはお前のとこの兵だろ!俺たちを待ち伏せし、ドナシアンもろとも吹き飛ばそうとした」
「本当かね?キミ?」
リオネルが兵に問う。震えるその吸血鬼は、リオネルの方に目を向けて答えた。
「ほ、本当です……自分の、独断で……行いました……」
「はあ!?リオネルの指図じゃないのか!?」
「断じて、違います……」
ヴラドは耳を疑った。リオネルはしたり顔でヴラドに言う。
「このものは自分の罪を認めた。独断でお前を狙ったとな。さて、このものはお前にくれてやる。好きにしろ」
「クソが!!」
どうやら最初から仕組まれていたようだった。カルディアの情報が本当でも嘘でも、この任務を口実に部下が独断で厄介者のヴラドを狙った。それがリオネルの筋書きだ。なにか弱みでも握っているのだろう、この兵は最初から使い捨てられる運命だった。唇を噛み締めてリオネルを睨みつけるが、そんなことをしても意味がない。
「ゴホン、ガキの遊びは終わったか?」
エヴァルトが重い口を開いた。心底迷惑だと言わんばかりだ。
「すみませんエヴァルトさん。ということでヴラド、退出願おうか」
リオネルが完全に勝ち誇った顔で言い放った。ヴラドは舌打ちをして大広間から出て行く、これ以上ここに居座ったところで、ヴラドに勝ち目などない。ドナシアンには悪いが、リオネルの罪を暴くことはできそうになかった。
「クソッ!!」
廊下にあった花瓶を力任せに殴りつける。ガシャンと床に落ちて割れてしまう。ヴラドの拳から血が流れるが、返り血のせいで目立たない。
「ヴラド」
その時、背後から自分を呼ぶ声がした。振り返るとレティシアンがいた。大広間から追ってきたようだ。
「なんだ?」
「……弟は……」
「はあ?死んだよ。文句があるならリオネルのクソヤロウに言ってくれ!」
レティシアンは俯いたまま何も言わない。
「そうか、レティ。お前も知ってたんだな。リオネルの目的を」
ビクッと肩を震わす。図星だったようだ。
「弟が犠牲になってでも、俺を始末する方がいいってことだよな」
レティシアンは黙ったままだ。
「……わかった。お前とクリストハルトは敵ではないと思ってたんだがな」
「すまない」
その一言で、ヴラドの中の何かが壊れていった。自分は決してこの集団の中にはいられない。吸血鬼であって吸血鬼ではない。それが自分だ。その自分をここに止めていたのは、友情と言えるのかわからないが一つの繋がりだった。ドナシアンが自分をここにいさせてくれた。そのドナはもう死んでしまったのだ。
ここにいてはいけない……ヴラドは踵を返して歩き出した。その背に、レティシアンが言う。
「私は、吸血鬼の未来のために行動している!ヴラドにも協力してほしいと思っている!この気持ちは本当だ!」
しかし、ヴラドは聞こえないフリをして歩き続けた。




