傭兵ギルドのマニュアル
傭兵ギルドに向かった三人は、大通りの先に大勢の人が集まり、黒い柱を囲んでいるのを確認した。
黒い柱は二階建ての建物よりすこし高いくらいの大きさで、黒い表面に青く光る筋が流れているのが遠くからでも見えた。
「あれが黒い柱……!」
「想像していたより小さいかも」
少年少女はそんなことを言いながら傭兵ギルドの前まで来た。
建物の入り口から中に入ろうとしながらアルトは「黒い柱は赤く光るんじゃなかったっけ?」と考えていたが、そのことは口にはしなかった。
ドアを開けて中に入ると、ギルド内は受付嬢があわただしく動き回っていた。いつもより受付嬢の数が多いのは、総動員令をかけたのかもしれない。
受付カウンターに近づくと、ひとりの受付嬢が話しかけてきた。
「あなたたち、なにしているの! 家に避難していなさい!」
えらい剣幕でそう警告する。
余裕がないのはその顔から判断できた。
「私たちも周囲の警戒にあたります」
「それで、槍を借りにきたのぉ」
セリスとメアが言うと、受付嬢はすこし怒った顔をした。
「何言ってるの? 子供は家で待機。それが緊急時におけるギルドからの指令よ!」
「私たちも傭兵……傭兵候補です。直接戦闘に参加しなくても、自分の身を守る武器が必要です」
受付嬢は思案しだした。頭の中で傭兵ギルドの手引き書を紐解いているのだ。
「わかったわ。こういう場合、戦闘に参加しない後方待機の人員にも、武器の携帯が推奨されています」
受付嬢は奥の壁に近づくと、壁にかけられた鍵を手に取って、子供たちに武器庫について来るよう目で合図を送る。
受付嬢と共に狭い通路に入って扉のひとつを鍵で開けると、そこには武器や防具が大量に保管されていた。
「武器と必要な防具だけ身に着けなさい。あくまで貸すだけですからね。無茶はしないように」
そう言うと受付嬢は武器庫を出て行ってしまった。
武器も防具も多くは大人が扱う大きさの物ばかりだったが、棚のひとつに小さな防具も用意されていた。
「武器と──革の鎧だけでも着けましょうか?」
「いや、ぼくはいいよ」
「わたしもぉ」
メアは鉄の槍が立てかけられている棚台のところに行き、適度な長さの物を手にするとそれを軽く振った。
「うん、これにしよぉ」
すると三人は互いの顔を見て、真剣な表情で頷いた。
すぐに武器庫を出て、ギルドの外に向かうと、激しい戦いが行われている柱に背を向け、アルトやメアの家がある路地のほうに向かって行く。
「柱から離れたところに黒獣が回り込んで来る事例があるらしいからね」
「そうだね」
そんな話をしながらすこし開けた路地に来ると、離れた場所から二人の傭兵が早歩きで三人に近づいて来た。
「おい、何している? 外は危険だ」
「私たちは周囲の哨戒にあたります」
二人の傭兵もどうやら哨戒要員であるらしく、眉をひそめながらも三人の行動に文句を言うつもりはないようだ。
「そうか。黒魔を見つけたら哨戒している奴に声をかけろよ。おれたち以外にも見回りに参加している奴はいるからな」
「はい」
アルトたちはそう返事をし、二人の傭兵が去って行くのを見守った。
三人は傭兵が去って行ったのと逆の方向に向かって移動をはじめた。
暗い夜道に人影はない。おそらく騒音を聴きつけて顔を出していた人を、哨戒していた傭兵が家の中に入るよう言って回っているのだろう。
町の裏通りの中でも大きな道を歩いていると、町を囲む囲壁の通りから、誰かが歩いて来る。
「誰……だろう」
「哨戒している傭兵──ではなさそうよ」
セリスはそう言いながら、短剣を鞘から抜いた。
その動きにつられてアルトも、背負った幅広剣を抜いて構える。
メアは穂先を下げるようにして槍をかまえ、暗闇から姿を現した人影をしっかりと目視した。
それは黒い鎧を身に着けたような人影。
しかし異様な雰囲気をまとうその相手は、人型の黒魔だった。




