アルト少年に神官は告げた
アルトはみんなと一緒にセリスの自宅の庭に集まった。庭に用意されたテーブルを囲みながら、神殿を出る前に神官から聞かされた話を思い出していた。
「アルト君」と年老いた神官は少年を呼び止め、つぎのような警告をした。
「いいかい、あの光を受けた君にだけ話しておこう。私がかつて見た虹色の光を受けた人は、創造の神の加護を活用し、ある曲を作った。──彼の名誉のためにも言っておくが、それ以外のすばらしい音楽も彼は作曲し、魅力的な音楽を私たちに届けてくれた。
しかし彼が最後に作曲した音楽によって、我々は大きな犠牲を支払うことになった。結果として彼は贖罪をするはめになったのだ。
そのようなことにならないよう、気をつけなさい。神の加護は、与えられた者を幸福にするとは限らないのだということを、決して忘れてはいけないよ」
神官の言葉は丁寧だったが、その声には重々しい圧力めいたものが感じられ、少年は声をひそめて「わかりました」と答えるのが精一杯だった。
くたびれた老人のような神官から、あれほどの迫力を感じるとは思わなかった少年は、しばらくじっと去って行く神官のうしろ姿を見送っていた。
音楽によって支払われた犠牲というものがなんなのか、アルトには想像することもできずに。
「どうしたのぉ? アルト」
考えごとをしていたアルトはメアに声をかけられ、はっと顔を上げた。
「な、なんでもないよ」
「何か心配ごと? あんなにきれいな光に包まれて加護を得たんだからぁ、何も心配いらないよぉ」
「そうだといいなぁ」
「それで、どういった能力を与えられたとかは、まだわからないの?」
セリスも興味を持ってアルトに尋ねてきた。
「わからないよ。セリスだってわからないでしょ?」
「私はなんとなくわかってるわよ。──戦いにおける直感力や、運動神経がよくなったのを感じるし」
「そうなんだ……」
セリスはそう説明して、ちらりとメアに視線を送る。
「わたしはぁ……、う──ん。たぶん体の力が強化されたんじゃないかなぁ」
「体の力って何」
「はい」
と少女は言って、手を差し出す。
アルトはなんの気なしにその手をにぎった。
「えい」
「いててててっ!?」
アルトの筋力が同世代の男の子の中でも貧弱なのは確かだが、メアに負けるようなことはいままでなかった。
「ふぅん、肉体強化の加護かな? メアも私と同じように傭兵になってみない?」
「えっ、セリスは傭兵になりたいの?」
痛めた手をぶらぶらさせながらアルトは口にした。
「あら? 言ってなかった?」
「聞いてないよ」
てっきり父親のように軍に入るのだと思っていた少年は、まさか彼女が傭兵という職業に興味を持っているとは想像もせず驚いていた。
少年が彼女の父親をちらりと見ると、その父は小さく頷く。……どうやら父親も公認しているようだった。
「そうなんだ……」
まさかの告白に少年は動揺していた。国の兵士になれば会う機会は減るだろうが、それでも会うことはできる。
しかし傭兵だと、世界のどこにでも移動してしまう可能性があった。
そうなればセリスと顔を合わせる機会はうんと減るだろう。少年は複雑な感情を募らせた。
彼には地元を離れるだけの気概はなかった。暮らし慣れた自分のよく知る土地で生きていくんだろうと、漠然とそんなふうに思い込んでいたからだった。
「あなたはどうするの? アルト」
「ぼくは……」
セリスの問いに、少年はうまい返答をすることができなかった。




