黒い柱の出現
命繁月(四月にあたる)を迎えて数日経ったころ、メイカムの町とゼフセンの街のあいだに黒い柱が出現した。
「前にぼくたちが黒蟲を倒したあたりかな」
「いいえ、そこよりもゼフセンに近いところらしいわ」
セリスは近場に黒い柱が出現したというので、積極的に情報を仕入れに行ったようだ。不安を感じているというよりは、大人の傭兵たちがどういった行動をするのか、それを学ぼうという考えらしい。
メイカムの町の傭兵もかなりの数が黒い柱の近くに拠点を作り、町の防衛に備えていた。
柱が現れたその日の午後には、柱から出現した数十体の黒魔や黒獣が討伐されたと、傭兵ギルドに報告が届けられた。そのまま夜を待たずに柱の中へ突入したクランが数組あったようだ。
彼らが黒い柱を攻略して戻るのを待つばかりだったが、メイカムの町を守っていた傭兵たちにとって予想外のことが起こった。
夕暮れをすぎて、みんなが夕食を食べ終えたり、あるいは夕食のしたくをはじめたころに、なんと町中に新たな黒い柱が落ちたのだ!
それは青い光をにじませる黒い柱で、町中に落ちたときに「コォオォォ────ン」という、軽やかな音を周囲にひびかせた。あまりに静かな、厳かとも言い表せるような音だったので、周囲の人間もその音が黒い柱の発した音だとは誰も気づかなかった。
柱は地面に刺さっていたが、衝撃で周囲の建物が壊れるということもなく、それは出現した音と同じくどこか静かに、そしてまったく不意に現れたのだった。
「ばっ、バカな! 町中に出現するなど聞いたことがない!」
傭兵ギルドの長は町中に黒い柱が現れたという報告を、ゼフセンに近い拠点の中で聞いた。
メイカムの町にも傭兵は残っているが、柱から出現した数に対応できるかは未知数だった。
「手の空いている者を急いでメイカムに戻せ! 私も戻る!」
そう叫ぶとギルド長ディアスはすぐに防具を身に着けはじめた。
メイカムの町は夕飯時ということもあり、表を出歩く者はすくなかった。
それに青い光を放つ柱から出現する黒魔や黒獣の数は、それほど多くはなかったようだ。
柱の周囲に集まって来た町の傭兵たちは、数体の黒獣と黒蟲を倒しながら柱に近づいて行った。そこで五体の、赤い角や青い角をもつ黒魔と対峙した。
人型の黒魔はどれも武装しており、威圧的な見た目をした、体の大きな個体が多かった。
すぐに戦闘がはじめられるかと思われたが、黒魔たちは傭兵たちを前にして、何事かを相談するような動きをしている。
黒魔たちが意思疎通をするのは周知の事実だが、その言葉は人間には理解できない言葉だとされていた。
仮面か兜を思わせる頭部をもつ黒魔は、それぞれの姿形も異なり、手にした武器も大振りの両刃の剣から片刃の曲剣。いびつな形状をした大斧など、個体によって違っている。
「ヴァーリアストゥ、エムァゲルケリース、インテ、ヘゥレースス」
そんな言葉を発した大柄な黒魔が、一歩踏み出して来る。
町中に落ちた黒い柱を取り囲んだ傭兵たちと、黒魔たちとの戦いがはじまろうとしていた。
町中のさわぎを聞きつけたメアが、心配そうに家の外に出て来ていた。
ちょうどアルトは幅広剣を手にして外に出て来たところだった。それは密かに戦技の練習をしようとしていたためで、町中に黒魔が出現したことを彼らはまだ知らないのだ。




