新日月(一月)から芽吹月(三月)まで
冬を前にしても傭兵ギルドの訓練に参加する子供たちは多かった。セリスやアルトやメアの活躍を聞いて「自分も」と望む子供もいれば、「自分には無理」と早々にあきらめる子供も出た。
大陸の東側にあるディルシアには雪が降ることはない。
大陸の西側と東側を分ける大きな山脈──ヒューガウルス山脈のそばにあるバゼラッド、コルバン、バルシャーラの一部では雪が積もることもあるが、ほとんどの国では雪を見ることはなかった。
一年の終わりもすぎ、新年の祝いをそこそこに迎えた少年少女はそれぞれの目標を胸に秘め、大地を照らす日の出を鐘楼の上から見つめていた。
アルトたち三人は黙って日の出を見ていたが、山脈のかげからオレンジ色の丸いものが完全に姿を現すと、すぐにその場を去って訓練場に向かった。
幼なじみの三人は一日も休むことなく体力作りや減量に励んでいた。
そうして日々をすごした彼らは、芽吹月(三月にあたる)を前にする時期になっても、変わらずに訓練をつづけていたのである。
三人はひとまわりたくましくなったように感じられた。
セリスはより大人びて見え。アルトは肩幅が広くなって、多少は男らしくなっていた。
メアはすっかり体型が変わっていた。身長も伸び、元の華奢な感じ……ではなく、太っていたころの肉付きのよい部分がそのまま残ってしまい、胸とお尻が変わらず大きいままだった。
セリスの胸のふくらみが控えめなのに対し、メアの胸はまだ十二歳なのに大人顔負けの大きさになってしまったのだった。
「ぜんぜんやせないよぉ〜」とメアは嘆いていたが、同世代の女の子たちからはうらやましがられていた。
「メアァぁ〜こんなに育っちゃって、いやらしい娘だね!」
「ええぇ〜? なんでぇ〜!?」
訓練の帰りに身近な女の子たちで公衆浴場に行くと、そんなふうにほかの女の子たちの注目をあびてしまうメアであった。
うしろから胸を触られて困っているメアを見ながら、セリスは自分の胸元を両手で触り、もうすこしくらい大きいほうがいいのかな。などと思ったりするのだった。
一方アルトにも変化があった。
と言っても、体の変化ではない。
少年は黒蟲の討伐を経験してからというもの、自主練習をすることが増えた。
それも夜間にこっそりと、人目につかぬように隠れて練習していたのだ。
空裂斬に衝壊撃(「打ち砕くもの」のこと)の練習をひとりでしていたアルト。
その練習をくり返すことで、技能表示にあったひとつの疑問が解消された。
それは各技の名前のうしろにある記号のことだった。
記号の正体は技の等級を意味しているらしい。
その横にある数字は、ランクを上げるために必要な数値で、それが回数のことなのか別のことなのかはわからなかった。
「記号が変わると威力が上がるみたいだ」
威力の増減は自分の力加減である程度変えられるが、ランクを上げたことでより威力を高めることができるようになった。
ただ威力を上げると、反動として体力が余計に奪われるのを感じた。体内の見えない力(気)を変換して打ち出すので、疲労を感じるのだ。
「けどこれで黒魔との戦いでも有利になる」
アルトは空き地にある木かげから細い道に出ると、暗い夜空に浮かぶ月を見上げ、こっそりと家に帰るのだった。
こうした彼の地道な活動のおかげで、まだ誰にもアルトの加護の力がどんなものか、バレることはなかった。
成長した彼らに、最初の試練が降りかかる──




