母の心配と現役傭兵のやりとり
「おいおい姉貴。そうムキになるなって、こうして無事に帰って来てるんだ。うまくやったに決まってるさ」
「ユーヤは黙ってて」
「い──や、黙らんね。おれはこいつがこんなちっこいときから見てきたが、こいつはそこらのバカなガキとは違う。頭を使って行動できる奴だ。
シェナ姉はもっと自分の子供を信じてやれよ。確かにこの年齢で黒蟲を相手にするなんて無茶なことだが、アルトはひとりで戦ったわけじゃないさ。そうだろ?」
傭兵の勘だろうか。ユーヤは無傷で黒蟲を倒したという子供の言葉から、どういったことがなされたかをなんとなく感じ取っていた。
怒っている母に漠然とした不満を感じていたアルトだったが、叔父が味方についてくれたのがうれしくて、彼はことの顛末をしゃべりはじめた。
「うん。ぼくだけじゃなくて、セリスとメアもいっしょに戦ったんだよ。鉄のような硬い体をした黒蟲を、セリスが光の剣で倒したんだ!」
その様子を見せようと、少年は剣を振り下ろすまねをする。
「セリス──あの銀髪のお嬢さんか。たしか城で兵士をしている父親がいるんだったか。それにしても光の剣ってのは光刃剣のことか? だったら鉄甲種を相手にしても勝てるだろうが……。いや、すげえ友だちをもったもんだな」
まさか鉄甲種を討伐していたとは思わなかったのだろう。ユーヤはアルトの飾った初戦の勝利をよろこばしく思う一方で、光刃剣を使えるという子供に嫉妬に似たものを感じていた。
「おれも光刃剣が使えたらなぁ。そうすれば鉄甲種が相手でも楽に勝てるんだが」
そんな弟の言葉を無視して、シェナはアルトを心配そうに見つめる。
「本当に大丈夫だった? 誰も怪我しなかったのね?」
「大丈夫だよ。それにちゃんと教官たちが前線に立っていたんだから。ぼくたちは後方の見張りをしていただけ。ただ運悪く黒蟲がこっちに逃げて来てしまったから、ぼくらで退治したんだ」
ユーヤは「たいしたもんだ」と少年たちの活躍を褒めながらも、何やら考えごとをしている様子を見せる。
「ちょっと待ってな」
そう言うと彼は立ち上がり、玄関のほうに向かって歩きだした。
アルトが母のシェナに黒蟲の大きさなどを説明しているところへユーヤが戻って来た。その手には一本の剣がにぎられている。
「アルトにこれをやろう。洗礼式のお祝いだ」
そう言って黒い革張りの鞘に収まった剣を差し出す。それは長剣よりも短い刀身の幅広剣だった。
「いいの?」
「ああ。ただしまだ全力で振るなよ? もうすこし腕の筋力をつけてから振ったほうがいい。その幅広剣は予備の武器としてもっていたんだが、使う機会はほとんどなかった物だ。だがバルシャーラの鍛冶職人に作らせたいい品だぜ」
「ありがとう、おじさん!」
傭兵の男は「おう」とだけ返事をしながら姉を見て、ちょっとばつの悪そうな顔をした。
少年は自分の得物となる武器の柄をにぎると、そのずっしりとした重さに感動に似たものを感じつつ、さっそく午後の訓練でみんなに見せようと考えて含み笑いをするのだった。
ユーヤはやんちゃでいい加減なところもあるけど、基本いい人です。酒、賭博、女遊び。そうしたことにのめり込みやすいだけで。




