傭兵の叔父さん
「ユーヤおじさん!」
「おう、デカくなったなぁアルト。二年ぶりくらいか?」
「三年ぶりでしょ」
とアルトの母が訂正する。
ユーヤはアルトの母の弟で、傭兵として各地を旅することが多かった。
短いヒゲをあごに生やし、赤黒い髪をぼさぼさに伸ばした、見るからに不摂生な印象の男で、見た目だけで判断すると三十代半ばといった年齢に見えた。
腕や首には鍛えられた感じはあるものの、全体的な印象はひょろ長い優男といった風貌をしている。
その見た目どおりのいい加減な男であり、三年も姉に顔を見せることもなく、いくつかの国をわたり歩いていたのだった。
だがアルトはこのいい加減な叔父が好きだった。彼の話してくれる各国のこと。嘘か本当かもわからぬ彼の武勇伝を聞くのが少年は好きだったのだ。
旅先で手に入れたお菓子や保存食をみやげにすることもあるので、その珍奇な食べ物も少年には物めずらしかったのであろう。
「そういや洗礼で加護を得たんだって? 姉貴はなんの加護を得たのか話してくれないからよ。なんの神様の加護をもらったんだ?」
「ああ、うん。幸運の神の加護──だよ」
少年はすこしためらった。しかし叔父はそのためらいを察知することなく、そうかそうかと頷いている。
「へレイスの加護か。おれの仲間にも幸運の加護をもっている奴はいるが、そいつが賭けごとに勝っているところをついぞ見たことがねぇ。戦闘での働きはなかなかのもんだが、本当に運がいいのかどうかわかったもんじゃねえ」
そう言って豪快に笑う叔父。その姉は自分の息子が洗礼式で虹色の光を発したことを肉親にも秘密にするという、慎重な態度を崩さなかった。
もしそんなことをユーヤが知ったら、アルトを傭兵団に加えようとするかもしれない。いい加減な弟に似ることを恐れた姉は、できれば息子が成長するまでは、この弟の影響を受けずにいてほしいと願うばかりだった。
「ぼくに幸運がついているかはわからないけど、今日ぼくは、大きな仕事を成し遂げたんだ」
少年はいつになく強気に出ていた。たぶん戦いの高揚感がまだ彼の中に残っており、さらに大好きな叔父にいいところを見せようと思ったのだ。
「へえ? そいつはどんな仕事だい?」
「幼なじみといっしょに、黒蟲を討伐したんだ」
そう言うとユーヤは、姉の顔色をうかがうようなしぐさをした。
アルトの母は少年の言葉を理解するのに時間がかかったらしく、しばらくは自分の子供がおかしな冗談を言うようになったものだと考えていたらしい。
「おいおい、アルトはまだ十二歳くらいだろう。黒蟲の相手なんて……」
「ほんとうだよ。ギルドから報酬だってもらったんだから」
少年はそう言うと銀貨と銅貨をテーブルの上に置いた。
それを見た二人の大人は互いの顔を見て頷くと、一斉に少年のほうを振り向く。
「そんな! いったいどうしてそんな危険なことに!?」
「すげぇじゃねえか! その歳で黒蟲を倒すなんて、こりゃ将来有望な傭兵だな!」
と、二人はまったく正反対と言える態度を見せたのだった。
「アルトはまだ、危険な怪物と戦えるような年齢じゃありません!」
しかし母は、厳しい口調でそう叱責した。




