鉄甲黒蟲を倒した三人
「その年齢で鉄甲黒蟲を倒すなんてすごいことよ」
「いや、姉貴よ。おれが片腕を落としていたからじゃないかな?」
「それは大した意味はないわよ」
そんな話をはじめた二人を見て、メアもアルトも笑っていた。
「いえ、片腕だったおかげで楽に戦えたんだと思います。お二人とも、おつかれさまでした」
セリス言うと姉弟たちは互いの顔を見合って「しっかりした子だ」などと口々にセリスを称賛した。
「君さえよければ、いつかおれらとクランを組んでほしいぜ」
「そうね、それはいいアイデアだわ」
二人が勧誘をはじめようとしたところに、教官も走って街道まで戻って来た。
笛が吹かれてから数分のことだったろうが、黒蟲はすでに倒されており、森の中に逃げ込んだほかの蟲たちもすべて駆除されたという報告がなされたのだった。
教官が「何が起きたのか説明しろ」と言うので、セリスは起きたことのすべてを報告し、笛を吹かなかったアンデムと、逃げだしてしまったその友人のことも報告した。
こうしたことを隠しても傭兵ギルドのためにも、アンデムたちのためにもならないからだ。
この場でとりつくろってしまうよりも、反省すべき点はきちんと反省し、傭兵として正しい認識をもたなければならない。敵前逃亡など言語道断で、それは仲間のために決してやってはならない行いだった。
「なるほどわかった。アンデムには正式に更生措置をすることになる。覚悟しておけ」
アンデムに教官は厳しい言葉を告げたが、そこには怒りの感情はなく、教え諭すような口調だった。
この段階(年齢)で間違った道を進めば、アンデムは傭兵になれたとしても、きっとうらぶれてしまうだろうと思われた。血気盛んなだけでは、危険な仕事である傭兵は務まらないのだ。
「それにしても光刃剣とはな。さすがだセリス。おまえたちもよくやった」
教官はメアとアルトの働きについても褒め、そのあとで姉弟の傭兵からも聞き取りをしていた。
アンデムが腕を怪我していることに気づいた魔法使いの姉は少年に声をかけ、「治療してあげる」と言って治癒魔法を使ってすり傷を癒した。
「よし、では町に戻るとしよう。荷車に乗ってくれ」
「あ、おれらはゼフセンの街に帰るので、ここでお別れです」
「じゃあね、セリスちゃん。さっきの話、考えておいてね〜」
魔法使いの姉が手を振りながら別れの言葉を残したが、少女は愛想笑いを浮かべただけで返事は保留したのだった。
荷車に乗ったアンデムは町に着くまで一言もしゃべらなかった。
さんざん戦技を見せびらかし、セリスが戦技を使えないことをあざ笑ってきた少年は、自らの恥を認めようとはしないようだ。
彼女が優れた傭兵候補だというのは誰の目にも明らかだったが、それすらも認めなければ彼はまだ負けたことにならない、とでも思っているのかもしれない。
メアはセリスの活躍について大よろこびで話していたが、その横でアルトはどこか上の空で彼女の話に付き合っているようだった。
それもそのはずで、今回の黒蟲の討伐に参加したことで、彼は二つの希有な技能を手にしていたのだ。
「光刃剣」と「治癒魔法」の二つを獲得したのである。
内心の動揺を隠しながら技能表示を見てみると、光刃剣は「闇を打ち払う光の武器」と出た。
治癒魔法は「生命の泉の雫」といった言葉で表されていた。
(なんでここに表示されるものは長ったらしい名前なんだろう)
などと少年は思いつつ、荷車に揺られながら流れていく景色をぼんやりとながめていた。




