セリスの本領
黒蟲は三人の動きに警戒している様子だった。
しかし隙を見せれば攻撃するかまえを取っており、カチン、カチンとハサミを打ち鳴らしている。
この奇妙な生き物は完全に人間を標的にしているようで、小さな頭をくるくると左右に動かしながら、四本の脚を使って右に左にと体を揺らしていた。
その動きは三体の獲物を前にして、どれからしとめてやろうかと考えている捕食者の動きを思わせた。
「いくわよ二人とも。私がやつのハサミを斬り落としたら横から攻撃して。たぶん腕を落とされたら逃げようとするはず。絶対に私たちでしとめるのよ」
セリスの言葉には不思議な説得力があった。彼女の中にある確信が二人にも伝わって、三人はひとつの目的を達成するための一団となっているようだった。
じりっと前に足を踏み出すセリスに対し、黒蟲はハサミを前に突き出してガチンと音を立てて威嚇する。
むしろその動きは彼女にとって好都合だった。
まだ相手の攻撃が届く距離ではないとわかるからだ。
「はぁっ!」
すばやい一撃がハサミの先端部分をかすめると、その一撃でハサミの先端が切断された。彼女の攻撃を受け止めるは、その部分は強度が足りなかったようだ。
「ギギギィッ」
黒蟲はさっと脚の一本で少女を攻撃し、それを躱したところに向けてハサミが襲いかかる。
彼女はしゃがみながらくるりと回転し、前に出された脚の細い部分を斬りつけ、その部分をたたき斬ることに成功した。
爪が欠落した黒蟲は体勢を崩してよろめいた。
「ふぅゥゥ……、ハアァァアッ!」
短剣を両手でにぎり、セリスが力を込めると、剣の刃が黄金色の光を放ち、その光が短剣よりも長い剣の形を作りだす。
「なっ、なんだって!?」
後方で戦いの様子を見守っていたアンデムが驚愕の声をもらす。
セリスが使ったのは「光刃剣」だった。
黒魔を打ち倒すために神が与えるとされる技能に中でも、扱える者のすくない強力な力。
「ヤアァァッ!!」
気迫のこもった声と共に、少女は光る刃を振り下ろした。
光の刃が黒い甲殻を斬り裂き、右腕のハサミを地面にたたき落とした。
「ギキィイィィッ!」
苦痛の叫びをあげながら一歩後退した黒蟲。切断された腕を上げ、青い血をだらだらと落としている。
「いまよ! 二人とも!」
「うんっ!」
「よぉし!」
両腕を失った黒蟲に二人が左右から襲いかかった。
すばやく側面に移動したメアが槍を突き出し、反対側からアルトが剣を大きく振りかぶった。
メアの攻撃がわき腹を突き刺し、アルトの攻撃が脚の関節を根本から断ち切った。
「とどめよ!」
大胆に接近すると、セリスは光り輝く刃を蟲の小さな頭にたたきつけた。
その攻撃はいとも簡単に頭部をまっぷたつにし、黒蟲はがっくりと地面に体を落とすと、しばらく脚をがちゃがちゃと動かしていたが、それもやがて動かなくなったのである。
「やったねぇ〜! それにしても光刃剣ってすごぉくめずらしい技能だよねぇ? セリスが使えるなんて聞いてなかったよぉ」
「そうだね」と冷静を装うアルトと驚きを隠さないメアに対し、セリスは彼女らしからぬニンマリとした笑みを作って見せた。
そこへ二人の傭兵が森から駆け出して来た。
ちょうどセリスが短剣の光刃を払って消したところに、若い二人の男女が姿を見せたのだった。
「おいおい、君がこいつを倒したのかい」
「ええ、私たち三人で」
若い男は戦士のようで、手には幅広の剣をもっていた。
「彼女は光刃剣の使い手のようよ。それならこいつの甲殻も貫けるでしょう」
男のとなりにいた女性は、何種類かの宝石がはめ込まれた銀のメダリオンをにぎりしめている。どうやら彼女は魔法使いらしく、腰のベルトにいくつかの小物入れを付けた格好をしていた。
「いやいや、にしてもだぜ。こいつは黒蟲の中でも硬い甲殻をもっている鉄甲種だぞ。それをこんな小さな子が……? まいったぜ」
「そうね、あんたは腕を一本落とすのが精一杯だったものね」
「おい姉貴よ、それを言うなって」
二人はどうやら姉弟であるらしい。
「それはともかく助かったぜ。あんがとな、お嬢ちゃん」
「それにしてもあなたたち、まだ傭兵ギルドで雇用試験も受けられない歳でしょう? なんでここに」
「私たちは教官に頼まれて、黒蟲が町へ近づかないよう見張っていただけです」
セリスの言葉に姉弟は納得したようだった。




