黒蟲の討伐と索敵
「セリス──と、メアにアルト。ちょっといいか」
「はい」
教官は明らかにセリスに用件をもってきた様子だったが、アルトとメアの顔を見た教官は、二人にも話しをしようと考えたらしい。
「町の北西にある森の中に黒蟲が数体入り込んだらしく、町の傭兵たちが討伐に向かった。しかしどうも難航しているらしく、このままでは森から逃げられてしまうかもしれん。そこで、森の周囲を囲むのをおまえたちにも手伝ってほしいそうだ」
そう説明すると教官は「見張りを手伝ってくれた者には少額だが報酬が出る」と付け加えた。
「それはいいんですが、二人は丸腰ですよ」
「ああ、わかっている。二人にもギルドから武器を貸し出す用意がある。だが三人は黒蟲と戦う必要はない。黒蟲を発見したら傭兵を呼べるように笛もわたすよう言われている。万がいち戦わざるを得ない場合は──セリス、君がリーダとなって指示を出すように」
「わかりました」
アルトたちも頷くと、そこに横から声をあげる子供がいた。
「教官! おれも参加します!」
いまだにセリスに対抗心を燃やしているアンデムが名乗り出た。
少年は表立って対決姿勢を見せることはすくなくなっていたが、内心はセリスに対する執念に近い対抗心をもちつづけていたのだ。
「いや、しかし……」
「だいじょうぶです。おれならやれます。それに、こいつもいっしょですから」と、友人の腕をつかんで引き寄せる。
「ええ──!?」
アンデムが小声で「いけるだろ?」と脅すような口調で言うと、少年はしぶしぶ「やります」と口にしていた。
教官はすこし考えたが、森の周囲を見張るだけの仕事だから大丈夫だろうと考えたようで、五人に「ついて来い」と言って訓練場を出て行く。
子供たちは教官について行き、傭兵ギルドの裏手に入って行った。そこは傭兵ギルドが保管する武具が置かれた倉庫で、少年少女たちに合う武器と防具を身に着けるよう指示を出し、教官は別の部屋に姿を消してしまった。
「さあ、防具を着けましょう」
「急な話になったね」
「けど、お母さんに贈り物をするって話をしてたし、ちょうどよかったね。──わたしはこの鉄の槍を借りようかなぁ〜」
アンデムたちは鉄の剣を腰に差すと、革の胸当てや籠手を身に着けていく。
「おまえらまだ防具も着けてないのかよ」
得意げな声で言うアンデム。
「アンデムもお友だちも、防具の大きさが合ってないわよ。それじゃいざというとき動きが制限される」
セリスはもっともな意見を言って、メアとアルトに合う防具をてきぱきと選んでいった。
三人が丁寧に防具を身に着けていると、別の部屋で装備を調えた教官が戻って来て、アンデムの友人の籠手のベルトをきつくしめ、胸当てを固定する背中側のベルトも強めに固定した。
「よし、森の近くまで移動するぞ。笛は二つ用意した。アンデムとセリスがもつように」
教官は二人に金属製の小さな笛をわたすと、ついて来いと言って倉庫を出て行った。
ギルドの裏手にある道に小さな荷車が止まっていた。二頭の騎竜馬引く荷台に子供たちが乗り込むと、教官は座席に腰かけ、手綱を手にして騎竜馬を走らせる。
急に訓練から黒蟲との接触の危険がある仕事に駆り出された三人は、荷台に腰かけて簡単な話し合いをはじめていた。
「教官の言うように、森の外に黒蟲が出て来たらすぐに笛を使いましょう。もしその音で蟲が迫って来たら戦います。傭兵たちが集まって来る前に私たちだけで倒せたら御の字という感じね」
「わかった、そうしよう」
三人がそんな打ち合わせをしている荷台の反対側で、アンデムとその友だちは声を殺して、何やらひそひそと密談をするのだった。




