メアのお母さんに安心を
翌日の朝に三人の幼なじみは傭兵ギルドの前で顔を合わせていた。
メアの顔はいつもよりも晴れやかだった。
昨日家に帰った少女は母に感謝を伝えて、自分たちの将来について話し合ったのだ。
必ず自分は傭兵になって、お母さんも驚くような活躍をして恩返しをすると。そう約束したのだ。少女はそうしたことを二人の幼なじみに打ち明け、決意したことをはっきりと言葉にした。
「わたし、立派な傭兵になる!」
「その意気よメア。あなたが努力家なのは知っているし、困難に立ち向かう度胸だってある。必ず私が一流の傭兵にしてみせるわ」
自信満々に宣言するセリスからは、幼なじみに対する親愛の情と、少女の決意に対するよろこびがあるのが感じられた。
「セリスの用事はもういいの?」
「ええ、アルトのお父さんが籠手を作ってくれることになったから。メア、覚悟はいいわね。今日からビシビシいくからね」
「うん!」
訓練場に入ると教官は午後まで訓練場を開放し、訓練生に自主練をさせると言うと、あわただしく去って行ったのだった。
「何かあったのかな?」
「さあ……、すこし気になるけど、いまは私たちのすべきことをしましょう」
そう言うとセリスは、メアに軽い運動をさせることからはじめた。
片足を前に出し、反対のひざを地面につくすれすれまで落とし、そこから前に出した足を戻す。そういった屈伸運動をくり返させた。
メアとセリスの二人がそうした運動をしているところから離れ、アルトは同年代の男の子と剣の稽古をはじめた。
革の胸当てを着け、木剣を振るい合う子供たちは真剣な様子で競い合っている。
こうした勝負において真剣になれない者から脱落していく。
負けず嫌いなだけでは強くなれない。
己の弱さと向き合い、その弱さを克服することこそが本当の強さなのだ。
アルトは強くなっていた。
負けず嫌いな性格でもなく、己の弱さを受け入れてしまうくらいの控えめな性格をしていたが、これと思ったことには積極的に取り組むだけの意志の強さが少年にはあった。
何よりアルトの付和雷同な性格は、本格的に周囲の人に合わせるようにできているらしかった。環境適応能力が高いのか、周囲に溶け込むことに優れた能力を発揮するのだ。
三人の訓練生と模擬戦をしてその全員に勝利したアルトは、セリスとメアのもとに向かい、休憩しようと声をかけた。
「そうね。そうしましょうか」
「わたしは軽い運動をしながらでいいよぉ」
メアは砂地に座り込むと、広げた足の先に手を伸ばす。
彼女はやせようとがんばっていた。
やせなければ傭兵にもなれないかもしれない。そう脅されたことで、自分の体型についてやっと自覚したのだった。
いままで彼女が気にかけていたのは母や友だちが優先で、自分の体型についてはまったく無頓着でいたのだ。
それが信頼する親友に「太っている」と告げられたことで、やっと自覚するにいたったのである。
「ところで、ぼくからひとつ提案があるんだけど」アルトがめずらしく自分から切り出した。
「なに? どうしたの」
「うん。ぼくもメアのお母さんには元気でいてほしいからね。何か元気づけられる物を贈ったり、メアが傭兵としてやっていけることを証明するような、そんなものを示したらどうかなって思うんだ。そうすればきっと安心するんじゃないかな」
「うん、それいいねぇ。……けど傭兵として生計を立てるのも、物を贈るのも、十四にならないと無理だよねぇ」
「そうね。……けどお金を稼ぐだけなら畑仕事の手伝いとか、それくらいならできるでしょう」
などと話しているところへ教官が近づいて来たのだった。




