母の愛
セリスは紙に料理で使う油や砂糖の量から、一日の献立に使う肉や野菜についても書き記した。
粗末な紙は数枚あったので、それに木炭で字をしたためながら、セリスは深刻な口調で言った。
「メアは生命の神の加護を得て体調管理には問題が起きにくいはずなのに、このままではまずいです。
特にメアは最近ずっと運動しています。それでも太るなんて考えられません。もちろん筋肉をつけるためにも肉や魚やチーズなどの食べ物は欠かせないので、あまり量をとりすぎず適切な量を守りましょう。野菜は多めにとって大丈夫です。
食事は一日三回。間食はできるだけ控えましょう。たまにお菓子を食べるのはいいですが、運動するのも忘れずに」
「はい」
「はいぃ〜」
メアは意気消沈している様子を隠さない。
「メア。これはあなたのためなのよ。私はぽっちゃりしたあなたはとてもかわいらしいと思うけど、男子から見たらどうかしら。あまりに太りすぎた女子を、男子がかげでなんと言っているか知っている? それはそれはひどい呼び名を付けて呼んでいるのよ」
とセリスがアルトを見ると、ほかの二人の女性たちも少年のほうを見た。
「え……、ぼ、ぼくはそんなことは言わないよ」
「どもった」
「そ、それはセリスの言い方のせいだから!」
あ──人のせいにした。などと言って仲良くじゃれ合うセリスとアルト。
三人の子供たちが笑うと、メアの母親もくすくすと笑いながら、仲良くしている子供たちをまぶしそうに見つめるのだった。
セリスとアルトが帰ると言うと、メアの母親は二人にケーキを持たせてくれた。彼女が手作りした小さな木箱は細やかな装飾がほどこされた美しい小箱で、それは店で販売することのできる商品だった。
「ありがとうございます」
セリスとアルトは友人の母に礼を言って家を出て行く。
メアも途中まで送っていくと言って二人について行ったのだった。
「メア。体調管理には気をつけるようにね」
アルトは少女を気づかってそう言った。
「うん、そうするよぉ」
「ほんとよ。甘い物は控えめに。たまに食べたほうがおいしく感じるものよ」
「わかったよぉ。太らないように気をつけるからぁ」
歩きながらそんなことを話していたが、セリスは急に声のトーンを変えた。
「あのねメア。私はあなたのお母さんを尊敬しているの。ご主人を亡くして女手ひとつであなたを育てているお母さんを。それは私たちが想像するよりずっと大変なことのはず。それでもあの人は自分には摂生し、自分が食べる分をあなたに食べさせてきたみたいにやせていた。メア、そんなお母さんを大切にしてあげてね」
「────うん」
友人の言葉を聞きながら、少女は母の姿を思い出したのか、急に真剣な顔をして肩を震わせた。
うれしそうにメアがお菓子を食べている横で、母もお菓子を口にしていたが、いつも彼女は娘の半分も口にすることはなかった。
そんな母の優しさを思い出し、少女はぽろぽろと涙をこぼすと、静かにむせび泣いた。
セリスはそんな友人を抱きしめると、優しく少女の背中をなでてやるのだった。
メアが落ち着いたあとで、三人は十字路の細道で別れた。
ぽっちゃり気味の少女は「すこし走ってくる」と言うと、家に向かわずに遠回りするように走り出す。
そのうしろ姿を見送りながらアルトたちは大通りに向かって歩き出した。
「明日はどうするの?」
「そうね。本当は籠手を作る予定でいたから時間が空いちゃった。明日も訓練場に行きましょうか」
「そうだね。メアが運動するのに付き合ってあげないと」
「アルトはもっと剣の修練をしないといけないわ。まだまだ実戦経験が足りてないんだから」
「わ、わかってるよ……」
と子供たちは明日の予定を決めると、それぞれの自宅におみやげを手に帰って行った。




