体型管理にご用事②
「二人ともどうしたのぉ? セリスは防具を作るって言ってなかったっけぇ」
メアはそう言うと、手にした大きな焼き菓子をむしゃむしゃと食べはじめた。
「メア、あなた……」
「あ、二人もせっかく来たんだからお菓子を食べていきなよぉ。まだまだあるんだぁ」
セリスの背中を見ていたアルトは、とても「いただきます」とは言い出せずに黙っていた。
明らかにセリスの背中が、怒りを抑えている雰囲気をかもし出していたからだ。
「メア。すこしあなたと、あなたのお母さんに話があるの」
「ふぇ?」
メアは相手の様子になんとなく違和感を覚えたようで、危うく飲み込んだお菓子をのどに詰まらせそうになった。
家の中は砂糖とバターの甘い匂いに包まれていた。
三人が調理場兼食卓に来ると、メアの母親が小さな石窯の前に立っていた。一軒家でも石窯が設置されているのはめずらしいが、この家を建てた人がもともと建築にたずさわっていた職人だったため、自分で石窯を造っていたのだ。
メアの父親はその職人の弟子だったので、師匠の晩年にこの家を譲り受ける約束を交わしたのだった。──その父親もすでにこの世にはいないが、二人は小さいながらも快適な家ですごすことができていた。
「メアのお母さん。すこし私の話を聞いてください」
「は、はい」
母は緊張している様子だった。
なにしろ彼女は貧しい家の出だったので、貴族に近い立場のセリスに対して、畏怖に近い態度をしてしまうのだった。
「かなりバターを使った焼き菓子を娘さんに与えていますね?」
「ば、バター。ええ、最近稼ぎがよくなったので、いままで娘にはあまりいいものを食べさせてあげられなかったので、その分これからは栄養のあるものを……」
母はなにやら弁明をしなければならないぞと思っているらしく、その声はだんだんと小さなものになっていった。
そんな母はやせていた。彼女の言葉どおり、自分の食事には気を使わず、娘の食事に力をそそいでいるのだろう。
「お母さんがメアを大切にしているのは知っています。私もメアのことは大切に思っているんです。だからこそ言わなければなりません。過剰な栄養を与えるのは、かえって健康を害することになります。率直に言って最近の彼女は太りすぎです」
「が──ん」と、メアは声に出してなげいた。
「ごめんなさいメア。けどあなたはお母さんとも話し合って傭兵になると決めたはず。いまのままではあなたは太りすぎて、二年後のギルド加入試験で不合格になる可能性があります!」
「ぇええ〜!?」
「これからは砂糖や脂の摂取を控えなければ。仮に体重の増加した状態で試験に合格したとしても、その体では各地をめぐることはできません。足への負担が大きすぎて、メアが五十歳になるころには杖を突いて歩くことになるかもしれない……」
セリスがあまりに迫真の表情で語るので、二人の家族は数年後、数十年後を想像して怖くなったようだ。
「そ、そんなの困るよぉ〜」
「そうでしょう。だから、これからは食事内容をみなおしてもらいます。食事に使うバターなどの油の量。食事の量や回数。これらをきちんと守ってもらいます。
ちなみに、お菓子はどれくらいの頻度で、どれくらいの量を食べていたんですか?」
「そ、そうですね……今日焼いたようなお菓子を二切れほど。三日に一回くらい」
母が恐る恐る口にすると、セリスは「多い!」と声をあげた。
「私の家でもお菓子は週に一回あるかないかですよ。──アルトのお宅はどう?」
「月に二、三回くらいかな。多くても五回は出ないと思う」
「そ、そうだったんですか」
二人の言葉を聞いて、母はなんども頷いていた。その顔はやや青ざめてすらいた。
「この分だと料理にもバターをたくさん使っていそうですね。バターには滋養があるとされていますが、摂りすぎはいけません。お母さんには献立を見なおしてもらいます」
彼女はにっこりとほほ笑んでいたが、その笑顔には有無を言わさない迫力がにじんでいた……




