籠手を発注するセリス
アルトの父は工房にいた。
傷んだ鉄鍋の修理をしていたらしく、カンカンカンという音が工房の外にまでひびいていた。
「こんにちは」
「おやセリスちゃん。どうしたの、めずらしいね」
「すこし変わった籠手を作りたいとお願いにきました」
籠手? ロベルトはそう口にして、防具の置かれた棚を指し示す。
「そこにいくつかある物じゃだめなのかな」
「見させてもらいますね」
セリスは棚の近くにアルトと共に近づいて行く。
木棚には籠手や胸当てや肩当てなどが部位ごとに置かれていたが、そのどれもが大人用の大きさだ。
「どれも大きいね」
「そうね。それに、私の考える用途には適してない」
「どんな籠手を考えているんだい」
作業を終えたロベルトが二人の近くまでやって来た。
「盾としても使える籠手がほしいんです」
「盾の付いた籠手? バックラーならあるけど……」
「小盾ほど大きくなくていいんです。けど相手の攻撃を弾けるだけの強度があって、極力軽い物はありませんか?」
「通常の籠手も武器による攻撃を受け止めることは想定してるけど、セリスちゃんの言う『攻撃を弾く』というのは、斬撃に対して腕を振って籠手を剣にたたきつける感じなのかい?」
「そう、そうです」
するとアルトの父は悩みはじめた。
「う──ん。あるにはあるが、軽さもとなると、バルシャーラから輸入される白鉄(チタンに似た金属)が無いとね」
「無いの?」とアルトが父に尋ねる。
「ああ、それがここ最近、輸入が止まってしまっていてな。それでダナンにある知り合いの工房に取り次いでもらおうとしたんだが、バルシャーラ国内での白鉄の需要が高まっていて、国外に輸出する余裕はないらしい」
南の大国バルシャーラはダナンの南西に位置する海洋国家であり、「北にアッシュフェルド。南にバルシャーラ」と言われるほど、二つの大国は大きな勢力を持っている。
「白鉄を使わないとなると、籠手の構造を変えるほかないね。二枚の板金のあいだに革をはさんで柔軟性を上げたり。ああ、革素材と言えば、刃で斬るのがむずかしい『アモンイタチ』の革がいいよ」
そう言うとロベルトは工房の奥から一枚の分厚い革を手にして戻って来た。
「ほらこれだよ。アモンイタチは小さいながら凶暴なやつで、傭兵の槍も簡単には貫けない体をしてるんだ」 少女はその革を手にすると、ごわごわする表面をたたいたり、力を込めて引っ張ってみた。
「はい」とアルトが小さなナイフセリスに手渡した。少年はそれがどれだけ強靭な革かを知っているのだ。
セリスはナイフの刃を革に押しつけて思い切り引いたが、革には傷ひとつつかない。
「すごいですね」
「何しろ小さなイタチから取れる革だから、これで鎧を作ろうと思ったら大変だが。籠手くらいなら一枚あれば十分だし、おすすめだよ。金属板の表面にこれをかぶせてやれば、硬くて強靭な籠手が出来る。──まあ、見栄えは悪いかもしれないけどね」
「それじゃあ、この革素材と鋼で籠手を作ってもらえますか」
「ああ、いいとも」
セリスがだいたいの籠手の形状を伝えると、ロベルトは簡単な設計図を黒板に蝋石で描き記した。
こうして少女の要望どおりの籠手を、二日後には作っておくと請け負ったのだった。
アモンイタチは創作したものですが「ラーテル」をイメージしてます。




