先達から若者へ
「あ──つまり、ぼくが言いたかったのは……」
と、ウェルクは言いよどんだ。
彼は昔話に夢中になりすぎて、一番伝えたかったことを言葉にするのを忘れていたようだ。
「自信は経験を重ねていった先で身につくものだってこと。特に君のような特別な加護を与えられた子供は、いつか必ず試練のときがくる。そのときまでに覚悟は決めておくように。それが言いたかった。
勇気ってやつは自分の中から振りしぼらない限り出てこないから。決意と覚悟をもっていないと、いざというときに身動きができなくなっちゃうからね」
その言葉を受け取ったアルトは、しばらく間を空けてから「はい」と返事をしたのだった。
ウェルクは話し終えると、「明日がぼくが参加する最後の訓練になる。ぼくから学べるものがあるなら、それを吸収してほしい。──と、あそこで待っているお友だちにも伝えておいて」少年にそう言い残し、控え室のほうに去って行った。
少年は彼のうしろ姿を見送って、不思議な先輩傭兵の過去を想っていた。
あのどこか頼りなさそうなうしろ姿からは想像がつかないほど、つらい過去があったようだった。見た目の優しげな雰囲気とは裏腹に、ウェルクには誰にも見せない一面が隠されているのかもしれない。
彼が仲間と共に生還した窮地は、間違いなく彼のその後に強い影響を残した。「誰も英雄になるなんて望んでいなかった」と言った彼。それでも彼は、周囲の人間が求める英雄になろうと奮闘していたのだ。
そうすることで誰かの希望になろうとするかのように。
黒い柱の中で彼は死の危険と対峙し、それを乗り越えることで強さを、覚悟を手にしたのかもしれない。
いつかは自分にもそんな場面がやってくるのだろうか。アルトは漠然と考えた。ウェルクはそう考えているようだった。
勇気。それは臆病な少年には縁遠いものに思われた。
しかし彼は自分のことがわかっていないだけかもしれない。
仲間のためなら好まない暴力沙汰にも飛び込んで行くだけの、強い気持ちを示せるところが少年にはあった。
いざというときには痛みや恐怖に打ち勝つ強い心が、彼の中にはひそんでいるのだ。ただ彼の勇気は内気で、なかなか表立って行動しないだけなのだ。
訓練場の出入り口で待っていた幼なじみに近づくと、さっそくセリスが少年に尋ねた。
「どんな話をしてきたの? 最期にはなんか訓練みたいなこともしていたわよね?」
「ああ、うん。あの人の加護の力を見せてもらってた。行動を予測できるんだって。
話は──ウェルクさんの過去にあった出来事を聞いていたんだ」
「あの人の過去ぉ? なんでそんなことをアルトに話したんだろうねぇ〜」
「それは──虹色の光を放つ『光の加護』を、ぼくが与えられた話を聞いていたからだって」
「光の加護? あの人はそう呼んでいるんだ?」
「うん。ウェルクさんのまわりではそう呼んでいるみたい」
「そうなんだ。それにしてもウェルクさんの加護の力って、行動を予測できるんだ? けど私との戦闘訓練のときにはそんな感じはしなかったけど」
「そりゃ、毎回使ってるわけじゃないんじゃない? 訓練で使用する必要はないだろうし」
アルトはそう言いながら、さっきすこし見た技能表示に表れた文字を思い出す。
そこには「使用回数」が記されていたのだ。
使用回数は一定時間が経過すると使用回数がひとつ回復すると出ていた。
現在アルトが「未来を研ぐもの」を使用できる回数は五回が上限らしい。
「なんにせよ明日がウェルクさんが訓練に参加する最後の日なんだから、あの人から学べることはすべて学ぼうよ」
「そうね」
「は〜い」
幼なじみ三人はそう決意し、元気よく訓練場をあとにしたのだった。




