三人の成長
北方の若き英雄ウェルクが参加する最後の訓練日。その日はあいにくの曇り空だった。
灰色の雲がたなびくすきまから日の光が降り注ぎ、光のはしごが空にかかった。
畑仕事もそろそろすべての収穫を終えるところで、天日干しにされていた麦稈を乗せた荷車が町の中へとつぎつぎに運び込まれて来る。
長霧月(九月)から紅葉月(十月にあたる)へ移ろうとする季節。その日は長霧月にしてはとても冷える朝を迎えていた。
訓練はいくつかのグループに分かれて行われた。基礎訓練の足りない者は筋力や持久力を上げる自主訓練。ほかの者は実戦形式の戦闘をまじえた訓練がはじまった。
今日は集団戦を想定した訓練からはじめられ、教官たちを黒魔に見立てた戦闘訓練が行われると、子供たちは初陣の兵士のように、なんとか武勲をあげようとでもいった顔をして、果敢に教官たちに向かっていった。
「やぁあぁっ!」
「えぃっ!」
ガツン、バシン。いくつかの音が打ち鳴らされる訓練場の中で、セリスとアルトとメアの三人はウェルクと対峙していた。
彼は二本の木剣を両手にたずさえ、三人を迎え撃った。
ほかの子供たちもウェルクに挑もうとする者が何人かいたが、セリスはそうした子供たちに声をかけ、別の教官のもとに向かわせていた。
「誰にも邪魔はさせない。私たちだけで一本取りましょう」
「うん」
「やっちゃおうよ!」
三人は意気込んで、集団戦がはじまるやいなやウェルクのもとに突撃して行ったのだった。
「どこからでもどうぞ」
革鎧や籠手などで身を守っているウェルクを取り囲む三人。
作戦はセリスが事前にいくつか立てていたが、三人の攻撃を受けてもウェルクの胴はおろか、腕にすら攻撃を当てることができない。
セリスの猛攻や、意表を突いたフェイント攻撃もギリギリで躱されてしまう。
彼は「行動予測」の技能を使っているわけではない。単純に実戦経験の中で身につけた、優れた戦闘感覚による回避技術の高さによるものだった。
「いい動きだ! もっと速く! 動きを読まれないようにするにはどうすればいいか、考えながら戦うんだ!」
彼はそんな具合にセリスにアドバイスをしながら、三人の連携をものともせずに闘いつづけた。
攻撃のほとんどを躱され、受け流されていたが、三人の攻撃が胴体や腕に当たることも何度かあった。
セリスの激しい連続攻撃を防いでいたときに、アルトとメアが攻撃をするという連携で、それぞれが一度ずつ攻撃を当てていた。
セリスは三回胴体に攻撃を当てていたが、そのどれもが浅い攻撃であり、あと一歩の踏み込みが足りないと自身で反省していた。
「みんなすごくよくなった」
訓練が終わるとウェルクは三人の成長を高く評価した。
「セリスさんの攻撃は正確で速く、洗練された戦いの技能には文句のつけようがない。
メアさんの攻撃は一撃一撃が重く、それに予想外の動きは相手にとって驚異だ。
アルトくんは全体を把握しながらの立ち回りに優れているし、攻撃のタイミングがうまい。けどもっと積極的な攻めの姿勢をもてると、さらによくなるよ」
彼は三人の長所や改善点を示すと何度も頷く。
「この分ならすぐに傭兵になって、階級を上げていけるに違いないよ」
その言葉にメアとアルトはすなおによろこんでいたが、セリスはどこか悔しそうにしていた。
「双剣の相手をするのに慣れていないせいか、思うように闘えなかった。──もう一度、お願いします」
「よし、今度は私たちだけでやってみようか」
「はい!」
セリスはめずらしく大きな返事をした。
彼女はこの訓練で自分の殻をやぶりたいと考えているようだった。
こうしてセリスとウェルクの一対一の模擬戦がはじまると、多くの見学者が二人の周囲に集まった。
おそろしいことにセリスは彼と闘っている最中に、急速に強くなっていった。二本の剣を躱す動作に慣れはじめると、反撃に打って出るタイミングが増えていき、ついには相手の攻撃を完璧な動き出しで躱して、胴体に重い一撃をたたき込んだのだった。
「すごいよ。まさかここまで完全な一本を取られるとはね」
ぼくもまだまだだなぁ、などと小声でつぶやきながらも、彼はどこかうれしそうに笑っていた。
タイトルは第二部終了のタイミングで変えようかと考えてましたが、この話から『神の黄金と黒い神剣〜少年と少女の英雄譚〜』に変更します。




