技能「未来を研ぐもの」
「柱の攻略をしたぼくは、あの人のせいで『英雄』なんて呼ばれるはめになってしまったんだ。危険な状況から仲間を救い、光の加護もちですら敗れた相手を倒した者としてね。
けどぼくらの誰も、そんなことを望んじゃいなかった。あの人が後先もかえりみずに突撃したおかげで、危うく死にかけただけ。それが本当のところだ。誰も死にたくなかった、ただそれだけだ。だから必死に戦って、みんなが一団となって奮闘したから生き残れたんだ。
ぼくが特別だったんじゃない」
そこまで話すとアルトの顔を見て、彼は不意に優しげな笑顔を見せた。
「けど、君はそうじゃない。光の加護を与えられていても、そのことをひけらかすどころか、隠そうとさえしている。
君ならぼくの話しを聞いてくれるだろう。──いいかい、たとえ君がすばらしい加護を与えられているとしても、才能をもっているとしても。君ひとりでできることなんてそんなに多くもないし、大きなことを成し遂げられるわけじゃない。仲間と共に。友だちと共に成長し、強くなった先に、やっと自分のやるべきことが見えてくることもあると思う。
いまは焦らずに、ゆっくりでいい。地道な経験を重ねて、すこしずつ強くなればいいんだ。
君が自信をもてずにいる理由はわからないけど、ぼくはむしろほっとした。君があの人みたいに特別な加護を与えられたからといって、無謀なまねをする人でなくて。
けどね、ぼくもそうだったんだ。もともと自信なんてかけらももち合わせていない、ふつうの少年にすぎなかった。
それがあの危険な戦いを乗り越えたがために、英雄に祭りあげられてしまっただけなんだ。
もちろんぼくはそれなりの努力をしてきたし、強くなるための研鑽を惜しまなかった。
けど戦う者である以上、いつかは自分の弱さと向き合って、それを乗り越えなければならないときが必ずくる。──ぼくがそうであったように」
そう言うと、彼はすっと木剣を前に突き出した。
「長話を聞かせたお詫びに、ぼくの加護の力を見せてあげよう」
そう言うと彼は優しく「かまえて」と告げて目を閉じ、その上から手ぬぐいを巻いて目隠しをした。
「どこからでもいい。横に回り込んで攻撃してきて」
彼の声には揺るぎない自信が感じられた。
それが知恵の神に与えられた技能への信頼なのだろうかと少年は思いながら、ゆっくりと目隠しをした男のまわりを回る。
彼は動かなかった。右横に来ても、正面を向いたまま微動だにしない。
少年は思いきって、木剣を振り上げながら踏み込もうとした。
するとその瞬間。
ウェルクは突然横に跳び、剣を両手で振り上げながら足を踏み出した少年ののど元に、木剣を突きつけたのだった。
彼が見せた技能を、アルトはヘレイスの与えてくれた力によって自分のものとしたのを感じた。
「未来を研ぐもの」という、よくわからない名称の技能をアルトは獲得したのだ。
「あの……」
「ん?」目隠しを解きながら、ウェルクは少年の呼びかけに振り向いた。
「なぜぼくに、その加護の力を見せたんですか?」
まるで彼が自分に技能を獲得させるため行動したように思えて、アルトはそう尋ねずにはいられなかった。
「そうだな……。なんでだろう。自分でもよくわからないな。けど、必要なことのように思えたんだ。
けどこの感じは、知恵の神の加護が必要なものを教えてくれるときの感覚に似ている。ぼくはその感覚に従うと決めているんだ。それで間違ったことはないからね」
彼は自分のした行動が、まるで自分の意志ではなかったかのような発言をする。
「知恵の神様の加護は、ほかの神様の加護とは違った感じがするんですね」
「そうかもしれない。──まあ、ぼくの与えられた加護は知恵の神の加護の中でも特殊だと言われるけど。何しろぼくの加護は魔法が使えないんだ。その代わり危険を察知したり、相手の行動が読めたりするのに優れているんだ」
その力があったからこそ、彼は仲間と共に柱から生きて帰って来られたのだろう。
「未来を研ぐ」という変な言葉ですが、不純物を取り除くなどの意味もある「研ぐ」という言葉を拡大解釈して「選択する(選別する)」といった感じで受け取ってほしいです。
米を研ぐときに黒い米を取り除くようなイメージです。




