ウェルクの過去の話
「今日はここまで」
教官のひとりが声をあげた。
子供たちはあとかたづけをはじめ、それぞれが手にした木剣や盾を手入れし、保管場所にもって行く。
「アルト」
そう呼び止めたのはウェルクだった。
「すこし話しをしよう」
彼は真剣な様子で言うと、アルトに付き添おうとしたセリスを手で制した。
「今回は彼と二人だけで」
どこか圧を感じさせる気配を放つウェルクに、少女はすなおに引き下がった。
棒をしまってきたメアがセリスのもとに戻って来ると、アルトはウェルクとどこへ行くのかと彼女に尋ねる。
「何かアルトに話があるそうよ。あとでどんな話をしたのか、アルトに聞きましょう」
離れて行く二人の背を目で追いながら、訓練場の出入り口近くにある石段に腰かけ、幼なじみを待つことにした。
ウェルクとアルトは木剣を手にしたまま向き合った。剣をかまえることはせず、ウェルクは少年に話しかける。
「実を言うとぼくがここに来る前、ギルド長から君のことを聞いていた。君が『光の加護』を与えられたというのをね」
「光の加護?」
「洗礼式で虹色の輝きを放つことを、ぼくらのあいだではそう呼んでいる。特別な加護を神から与えられることさ」
「……」
アルトが気まずそうに黙ると、ウェルクもまた沈黙した。
そして何かを思い出しているような目をしながら、ぽつりぽつりと話しはじめる。
「ぼくは以前、その光の加護を与えられた人といっしょの隊に入っていたんだ。傭兵団の中にいくつかある小さな集団のリーダを、その人はしていた。
けどその人は性格に問題があってね。横暴で独りよがりで意地が悪く、後先考えない人だった」
かなり辛辣な言葉でその人物を評したが、彼以外の面々もそう思っていたのだから彼の言い分は正しいと言えるだろう。
「その人は光の加護を与えられたことで増長していたんだろうね。ぼくや仲間の意見など聞こうともしなかった。危険な侵蝕迷宮に挑戦して、危うく仲間が死ぬ寸前までいったこともあったんだ。
それでぼくらは団長にかけ合って、彼の横暴を訴えた。危険な探索に向かわないようにするためにね。けど、彼はそのことにも怒りをあらわにした。団長に告げ口をするようなまねをしてと、すごい剣幕でね。誰もがもう、あの人を頼りにしていなかった。隊の仲間はあの人よりも、ぼくを頼るようになっていたんだ。
それも彼の気に入らなかった。
そんなとき、たまたま立ち寄った町の近くに黒い柱が落ちたと知ったあの人は、その柱の攻略に行くと決め、ぼくらもしかたなしについて行ったんだ」
悲壮な顔をしたウェルクの様子から、何かよくないことがあったのだとアルトは感づいた。
「何しろぼくもあの人も、それどころか仲間たち全員が柱の攻略は初めてだったんだ。柱の周囲にほかの傭兵団の部隊も集まりはじめていたのを見て、あの人は自分たちが先に柱に突入すると言って聞かなかった。
柱から現れた黒魔の尖兵を周囲の人たちに任せて、ぼくらは柱の内部に突入させられたんだ。
一階、二階を強行突破して柱の中心部にたどり着けたまではよかった。けどそこで、コアを守る黒魔の一団と正面からぶつかってね。誰もが死に物狂いで戦ったよ。
そこには明らかに首領らしい強力な黒魔がいて、あの人はその黒魔の手にかかって倒されてしまったんだ。
退路をふさがれたぼくらは連携をとって対抗した。みんなぼくに指示に従ってくれた。みんなはぼくがオルニスの加護の『行動予測』の力で、活路を見いだしてくれると信じていたんだ。
全員。全員が力を合わせ、ぼくらはなんとかその窮地を脱することができた」




