ウェルクとミルダの模擬戦
ウェルクと二人の女性が話しているところに、セリスが近寄って声をかけた。
「ウェルクさん、そちらの二人は」
「ああ、この二人は月光狼の仲間なんだ。ミルダは戦士。イサリアは魔法使いだよ」
よろしくと言いつつもミルダもイサリアもどこか他人事というふうで、すぐにでも立ち去りそうな雰囲気を出していた。イサリアにいたっては「帰りましょう姉さん」と、口に出しているほどだった。
「まあ待って、せっかく来たんだ。私とミルダの立ち合いでもみんなに見てもらおうじゃないか」
「私?」と、ウェルクが一人称を変えていることにつっこみつつ、ミルダは考えるそぶりを見せる。
「まあ、私はかまわないけど」
「なら決まりだ」
そう言って彼は、近くの子供が手にしている木剣と木盾をミルダにわたすよう声をかけた。
子供から木製の剣と盾を受け取るとミルダはイサリアに告げる。
「念のため、防御魔法をかけてちょうだい」
「おっ、戦技ありの模擬戦か」
「そのほうが子供たちの手本になるでしょう」
くるくると木剣を回し、盾に貼られた皮の面をこんこんとたたく。
セリスは模擬戦をはじめるというのを子供たちに伝えるためにその場を離れ、アルトとメアにも声をかけた。
「あの人たちも月光狼の傭兵なんですって。模擬戦をするから見にいきましょう」
「う、うん」
ぐいぐいとセリスに手を引かれるままアルトとメアは、ウェルクのまわりを囲む形で集まった。
「守護壁陣(イル=ラダスク)!」
イサリアが魔法を使った。
ウェルクとミルダの体を青い光が包む。
それを目撃したアルトはその瞬間に、自分の中にある加護が力を発揮し、その魔法を使えるようになったと自覚した。
(ま、守りの魔法ってめずらしいんじゃないのかな)
魔法についてはほとんど無学に近いアルト。
それはほかの子供たちも同様だった。
魔法使い自体がすくないため小さな町に住む人の中には、魔法を目にすることなく一生を終える人もすくなくない。
傭兵として黒魔との戦いに参加した人は、大規模な黒い柱の攻略や、迷宮を仲間と戦う中で魔法使いと出会うこともあるだろうが、一般人にはその機会がないのである。
二人の模擬戦がはじめられると、彼らのまわりを囲む少年少女たちから歓声が何度もあがった。
激しい攻防がくり広げられる中、アルトは目の前で行われる闘いよりも、加護によって手にした新たな力に興味を引かれていた。
技能表示を見てみると、そこには新たに「守りの防壁」という言葉が登場した。
──戦技なのか魔法なのか区別がわかりにくいなぁ──
などと思っていると、言葉と言葉の間隔が開いたりせばまったりしはじめた。
(わっ、わっ)
少年がなんだなんだと思っているうちに、それらは大きく二つの範疇に分類され、その表示のところに「戦技」と「魔法」という表記が新たに記された。
どうやら彼の意識が介入することもできるらしい。
戦技や魔法の名前のうしろにある数字を触るように意識すると、そこに「昇華/経験」という文字が表示されたが、少年にはむずかしくて読むことのできない文字だった。
するとその文字が変化していき、ほんのすこしのあいだだけ、「昇段/練習」といった意味合いの言葉に変わったのだった。
見慣れない記号は特に変化はなく、それを触れるよう意識しても、なんにも起こらなかった。
などと試行錯誤しているうちに、目の前で行われていた模擬戦は、ウェルクの勝利で幕を閉じていた。




