フェルベルス(月光狼)の傭兵
午後の訓練が終わるころ、訓練場に二人の女性がやって来た。ひとりは見るからに手練れの傭兵という気配を漂わせている人で、鋭い眼光をもってはいるが、優美さをもつ女性だ。
その背後からおどおどした、小柄な女の子が追いかけてくる。一見すると少女のようだったが、その顔立ちを見るとどうやら大人であるようだ。小柄な見た目とは違って、この場にいる少年少女よりもずっと年上のようだ。
「み、ミルダ姉さん。ほ、ほんとうにここにいるんですか?」
「そう聞いている。──何をおどおどしているの? もっと堂々としなさい」
「だ、だってえ……こんなに子供たちが」
そんな会話をしながら二人は誰かを捜しているらしく、きょろきょろとまわりを見回している。
「ああ、いた」
そう言って歩き出した女性をあわてて追いかける小柄な女性。
二人はウェルクが子供たちに指導しているところに近づいて行く。
「ウェルク」ミルダと呼ばれた女性が声をかけた。
「ん?」
振り返った彼は怪訝な顔をして目をこする。
「ミルダにイサリアじゃないか。こんなとこに何しに来たんだ?」
「それはこっちの台詞。なんで休暇に訓練場に? しかもよその国の」
「子供たちの訓練に参加してくれって依頼を受けてね。それに、気になることもあって」
「ふぅん?」
イサリアと呼ばれた女性はミルダのかげに隠れながら彼に近づいた。
子供たちの視線から逃げるように気配を消そうとしている。
「それで、なんでディルシアまで? まだ休暇は終わりじゃないだろ」
「それをあなたに言われてもね。──まあ、月光狼のつぎの行動範囲がディルシアのほうに決まったから」
「そうなんだ? ということは、ネフォンの街を中心に活動するのかな」
「そうね。フラムアート神域迷宮を第一目標に、第二目標としてビルゼブル侵蝕迷宮も検討してるって団長が」
「今度は団長も参加するんだろうね……」
「たぶんね」
二人はちらりとイサリアの顔を見る。
「た、たぶん来るよ。おじさんも旅のしたくをしてたから」
彼女の言った「おじさん」とは、傭兵団「月光狼」の団長であるクーフのことだ。
イサリアの親類であるクーフもまた、彼女と同じく魔法使いという部類の人物であり、彼は遠征不参加の常習犯として仲間内から白い目で見られることがあった。
多くの魔法に精通した高い技量をもつ魔法使いである反面、傭兵団の切り盛りは妻に任せっきりで、たびたびそのことを皮切りに夫婦間でもめるのだ。
ちなみにイサリアがミルダのことを「姉」と呼んでいるのは、幼少期からの近所付き合いが高じた結果で、血縁関係はない。
「もうこっちに来てる団員もいるわよ」
「え、そうなんだ。誰が来てる?」
「チェインベル、デラクリア、ディシマスの三人です」
三人がそんな感じで話している横で、訓練をしていた子供たちが謎の大人たちを不思議そうに眺めているのだった。
フェルベルスの団員たちの名前がいくつか出ましたが登場しません(先の展開では出る可能性も)。雰囲気程度のものとして受け取ってください(笑)




