アリアーネスのこと
「けど、なんでアリアーネスの名前を? どこで知ったんだい」
「私の父からです。二、三年ほど前に、お城の兵士と傭兵の交流試合というのがあって、そこにすごく腕の立つ女傭兵がいたと聞いて。それがアリアーネスという人だったと」
「へえ、交流試合にね……。いくら強くても、あんな傍若無人な人物をお国を守る兵士と戦わせていいのかねぇ」
「う──ん、父の話を聞いた限りでは、ウェルクさんの言うような人柄ではなさそうでしたけど」
「そうなの? だとしたらあの女もすこしは猫をかぶるようになったのかな」
どうも彼はアリアーネスという幼なじみのことになると、過去の亡霊に怯える臆病な子供になってしまうようだ。
「にしても、お父さんから話を聞いただけで闘ってみたいと思ったの?」と質問したのはアルトだった。
「そうね……、父さんの話しっぷりがよっぽど子供の私の印象に残ったのね。なんとなくだけど、──うん。確か父さんはこんなふうに言ってた。『あんなに強い女の人は初めて見たよ』って。その言葉が私にその人と闘ってみたいって、そう思わせたんだと思うわ」
少女にとって数年前の記憶にすぎないが、それでも子供にとっての数年は密度が違うのだろう。まるで大昔のことを話すような口ぶりだった。
尊敬する父が褒めた相手に対する少女の想いは、強い同性への憧れだったのか。それとも倒すべき好敵手のように考えていたのかはわからない。
「強さを求めるなら、強い相手がそばにいるという環境はいいものだ。高い目標をかかげ、そこに向かって修練を重ねるには強い意志が必要で、その意志をつねに奮い立たせてくれる相手がいれば、若いころは特に実力を伸ばせるはずだからね」
「ウェルクさんにとってのアリアーネスさんみたいに?」
セリスが言うと、彼は心底いやそうな顔をしていた。
それを見た三人の幼なじみは声を出して笑ったのだった。




