女剣士アリアーネスとウェルク
「アリアーネスのことを知っているんですか?」
セリスはウェルクを問い詰めた。
「ぁ、ああ……うん。まあね……」
彼の返事は気乗りしない人のそれで、なんとかその場をやりすごそうとでもしている様子だった。目は泳ぎ、よく見ると冷や汗らしいものをかいている。
三人が黙ってじっと見つづけていると、彼は観念したように話しはじめた。
「たぶん、そのアリアーネスというのは、私の幼なじみのことなんだ」
「へぇ〜」と声に出したのはメアだけで、アルトとセリスはひそひそと小声でやりとりをはじめている。
「それって、さっき言ってた人のことかな?」
「同年代の女の子に負けてたっていう話?」
「そうそう」
こんな感じでないしょ話をする二人。
「そうだよ。ぼくにとっていやな思い出しかない子供時代の話だ。
アリアにはいつも剣の稽古にむりやり付き合わされて、ほとんど一方的にやられていたんだから」
あ、「ぼく」に変わった……
アルトがその疑問を口にすると、ウェルクは照れながら頭をかく。
「ぁ、ああ、それね。ふだんは自分のことは『ぼく』って言ってるんだ。けどこういう公? の場では威厳をもたせようと『私』って使ってるんだ。──だって、見た目からして強くなさそうだって思ってたでしょ? だから、すこしでもその印象を与えたくなくて」
彼の言葉があまりに的確だったために、少年少女は返答に困り、うっかりと「そ、そうですね」などとハモってしまったのだった。
ウェルクはがっくりと肩を落とし、さらに弱々しい感じになってしまう。
彼の本来の姿や生い立ちの一部を知ったアルトは、彼に親近感を覚えたようだ。
(まるでぼくとセリスみたいだ)
そんなことを考えてしみじみとしていると、セリスが彼の考えていることを察して、軽く肘打ちをしてきた。
「な〜にを考えてたの」
「や、やだなぁ。ぼくは別にセリスにむりやり付き合わされているだなんて、お、思ってないよ」
肝心なところでアルトはまたどもってしまった。
少女はにっこりとほほ笑んでいたが、どこか怒っているようにも見える笑みだった。
「いやいやアリアはセリスさんのような優しい性格じゃなかったよ。あれは女の皮をかぶった黒魔だと、本気で思ってた時期があったくらいだからね」
そのたとえはあまりにひどいと三人の子供たちは思ったが、ウェルクは本気で言っているようなので、そこに反論するのは止めておいた。
「そ、そんなにひどかったんですか」
「そりゃあもう! 稽古をつけると言って、毎日のように棒でなぐってくるんだから。十四になって傭兵ギルドに入ることになったとき、あの女といっしょにいたくないあまり、ぼくは街の外から来ていた傭兵団にお願いして、こっそりと街を出て行ったくらいだからね!」
「親は心配したんじゃないですか?」
セリスの問いにウェルクは首を横に振る。
「ぼくと彼女は孤児だったからね。親はいないんだ。けど出て行くとき、孤児院の院長先生には断りをいれたよ。その後はアリアと会ってない。彼女はアッシュフェルドの中央都市ガジェルとか、デシール国の北部を行き来しているといううわさを聞いて以来、そこには近づかなかったんだ」
徹底して避けていたらしい。
そこまで嫌うのもどうかと思うが、嫌われるほうもどうかと言える。
彼らが何か言おうとする前にウェルクは「親のことは気にしないで」と先に断りをいれてきた。
この人は思いやりもある人物のようだが、アリアという幼なじみには容赦がないようだ。
「ともかく、仲間は大切にしないとダメだよ。傭兵として戦うということは、互いに命をあずけ合うということなんだから」
「黒魔と戦うって、どんな感じなんですか?」
「それを一言で説明するのはむずかしい。いろいろな種類がいるからね。けど──奴らの中には人間と同じような思考をしているものがいるのは間違いない。黒獣や黒蟲と連携するだけでなく、その戦闘スタイルも人間のそれと酷似しているんだ」
「戦技を使ったり?」
「そうだよ。空裂斬と同じ攻撃をくり出してきたり、魔法を使ってきたりするんだ。人型の黒魔との戦いは特に注意が必要になる」




