はじめての真剣勝負
「どうだろう、つぎは私とやってみないか」
ウェルクは早くも二人を撃破したセリスに近づき、そう声をかけた。
「望むところです」
彼女は息も切らせずにそう答えると、口元だけの笑みを浮かべた。
その瞳はどこか戦いに対する欲望を燃え上がらせるように、青い瞳を爛々と輝かせている。
(これは手強そうだ)
彼は木剣をそばにいた少年から受け取りながら、少女の放つ闘気を軽くいなす。
二度ほど木剣を振るとウェルクはセリスと向かい合い、二人は互いに礼をして木剣をかまえた。
訓練だというのに、二人のあいだにはいままで感じたことのない緊張感が満ちていて、周囲で訓練をしていた子供たちは自然と二人の様子を見守る格好になった。
ざっ、という地面を蹴る音がしたかと思うと、少女が一気に間合いを詰め、ウェルクの胴を低い姿勢から薙ぎ払った。
かなり踏み込んで木剣を大きく振り抜いた攻撃を、彼はあっさりとななめうしろに下がって回避する。
両手で振り上げた木剣が振り下ろされたが、セリスはその攻撃がくる前に横に跳び、反撃に対する反撃をくり出した。
「おっと!」
鋭い突きが飛んできたのをくるりと回転させた木剣で弾くと、ウェルクはとんとんとんと、その場でステップを踏んだ。
「突きは私も得意だよ」
そう言うやいなや、三歩ほどの間合いを一瞬で詰めると同時に、三回の突きをみまってきた。
すばやい三連続の突きをセリスはたくみに受け流し、半歩後退する。
彼女は父との訓練で鋭い突きを受けてきたが、それを上回る速度の連続突きを見せられて、相当あせった様子だった。
(やっぱり強い……!)
だんだんと相手の強さが浮き彫りになってきて、それと同時に彼女の加護の洞察力が危険な相手であると告げるのが感じられた。
その二人の闘いを見守るアルトとメアも、ウェルクの強さに驚愕していた。
教官相手にも引けを取らないセリスの強さを見てきた彼らにとって、彼女が苦戦するところを見たのは、ほんの数回しかないことだったのだ。
だが──当の本人は笑みを浮かべていた。
教官の中でも強い人と戦闘訓練をしたときもこんな笑みを浮かべていたな、とアルトは思い出す。
そのとき彼女はかなり本気を出して闘っていたと思うが、さすがに実戦を何度も経験している教官には勝てず、敗北を喫していた。
しかし敗北した彼女は悔しがるどころか、楽しげに笑っていたのだ。
本心から剣の競い合いが好きなのだろう。
おそらく父親との勝負でも何度も負けを経験し、それでもなお立ち向かいつづけているのだ。
不撓不屈の精神を養うために、自らが受けた敗北を糧にさらに強くなるのだと、彼女は理解しているのである。
勝敗はわりとあっさりと決した。
互いの攻撃を回避し、受け流し、烈しい攻防がつづいたが、身長差もあって少女は敗れてしまった。
「強いね」と、試合後にウェルクは少女に声をかけた。
「まいりました」
「いや、実際のところ拳ひとつ分の身長が君にあったら、勝敗は違っていた」
「けど、手加減されてましたよね?」
セリスは見抜いていた。ウェルクが実力の一部しか見せていないことを。
「そうでもないよ。君の年齢を考えれば本来なら、片手で相手をしてもいいくらいだ」
それをしなかったのは、相手の力量をふまえての判断だった。
彼女の強さを引き出すため、基礎とは異なる武芸の技で攻めたりもしたのだが、彼女はそれを防ぎ、躱していた。
「君はまだまだ強くなる。数年後に、またやろう」
「はい」
背を向けて去って行く強敵を見送りながら、少女は練度の高い戦士が使う番外の戦闘技術をまねしてみようと、さっそく木剣をかまえて振りはじめるのだった。
「番外の戦闘技術」=基礎(型)を越えた実戦的な戦い方のこと。




