よその街から来た傭兵
いつものとおり傭兵ギルドの訓練場に三人がやって来て、木剣や棒を使って戦闘訓練がはじまった。
「相手の動きをよく見て!」
セリスの声が飛ぶ。
いまアルトが対峙しているのは棒を手にしたメアだった。
「相手の武器と足の動き。そこから攻撃の瞬間を見切るの!」
などと彼女は言うが、それを実践できるほどアルトとメアの二人は、戦闘感覚が優れているわけではなかった。
セリスにいたっては相手の首から肩の筋肉のわずかな動きで、攻撃の瞬間を予測できるくらい秀でた読みをもっていたが、それは加護の力の影響もあるのだろう。
「フェイントで相手の反撃を誘うのも有効よ!」
その声が聴こえるか聴こえないかの一瞬で前に出たのはメアだった。
彼女は離れた位置から突きを打つ槍術としての攻撃よりも、棒の上下を交互に振り回してなぐりつける、棒術の戦闘スタイルを好んで使用していた。
両手でつかんだ棒をすばやく右から左から相手をなぐりつける動きは苛烈で、この猛攻をしのげるのはセリスとアルト。年上の槍使いのピアナくらいのものだった。
アンデムもメアの棒術の猛攻を受けたことがあったが、上半身ばかりねらわれて意識が上にいったところで足を払われ、さらに倒れたところに一撃を受け、無様に倒れ込むという結果に終わっていた。
「わっ!」
右からくる攻撃を木剣で防御すると、すぐに棒の反対側が逆方向から飛んでくる。
アルトはそれをすんでのところで躱し、反撃の突きを打つ。
けれどもその反撃を読んでいたメアは、くるりと体を回転させながら棒を薙ぎ払い、アルトの背中をたたいた。
「いッたい!」
今回の勝負はメアに軍配が上がった。
小さなメイカムの町の訓練場では訓練生同士の戦闘訓練が多く、たまに現役の傭兵である者が教官として相手をするくらいだった。
だがギルド長の計らいで、べつの町から傭兵を招き、訓練生の模範となるべく指導をお願いしたという話がされた。
この町の傭兵は最高位でも銀等級であるから、金等級の傭兵が来るのではないかと子供たちのあいだでうわさになっていた。
「すっごい怖くて、厳しい人だったらどうしよう……」
「のぞむところよ」
「ぇえ〜~、ぜんぜんのぞまないよぉ〜」
そんなふうに話している子供たちのところに、ギルド長と共に一人の男が近づいて来た。
「集まれ」
教官が呼びかけると、戦闘訓練をしていた子供たちと、その闘いを見守っていた少年少女が一ヶ所に集まった。
ギルド長は年老いており現役からは遠ざかっていたが、まだまだ体つきは屈強さが残っていた。太い首やほほに傷のある感じが、さながらメスの奪い合いをして傷ついた海獣を思わせた。
「今日はこの人に訓練への参加をお願いした」
そう野太い声で言うと、自己紹介をするよう男に促すギルド長。
「えっと、ウェルクと言います。アッシュフェルド出身です。等級は銀。よろしく」
男は若く、見た感じそれほど強そうには見えなかった。屈強な体つきのギルド長のほうが強そうに見えるくらいで、銀等級ということにも拍子抜けした訓練生は多かった。
身なりもふつうの旅人という感じで、腰から下げた長剣にも特徴的なものは一切ない。
しかもその見た目は黒髪に黒い上着に黒いズボンに黒い靴と黒ずくめの格好で、ご丁寧に剣を収める鞘も黒い色をしていた。
男を見た多くの子供たちは落胆したのか、それともほっとしたのか、あちこちでため息がもれた。
「おまえたち、この人は北方の若き英雄と呼ばれている人だぞ。わざわざお呼びしたんだ、この人から学べるものはすべて学ぶつもりで気合いを入れろ!」
声に力を込めてギルド長が一喝すると、その横でウェルクはにこにこと笑みを浮かべていた。




