訓練の日々
「それで、ベイオンは謝りにきたの?」
訓練場に先に来ていたセリスが、木剣を素振りしながら二人の幼なじみに尋ねた。
「え、なんで知ってるの?」
「それはあいつから手紙が届いたからよ」
横目で二人を見ながら、彼女はベイオンから届いた手紙の内容を簡潔に説明した。
手紙の中には加護をもらえなかったことで自暴自棄になってしまったこと、その気持ちをメアにぶつけてしまったことが書かれ、そのことを謝罪に行くと書かれていた。
「それで、あなたたちはあいつを許したの?」
「う──ん、わたしはちょっと複雑な気持もあるけど、でももう怒ってないよ」
「ぼくも」
「あっ、そう」
セリスはそう言うと、まるで目の前にベイオンがいると想像して、その頭に振り下ろすような力を込めて木剣を振り抜いた。
風を斬る音が二人の少年少女をビビらせたが、セリスは表面上はにこやかな顔をして言った。
「ま、二人がいいなら私はそれでいいけどね」
その様子を見ながらアルトは、ベイオンが彼女に手紙だけで済まし、顔を合わせなかったことに心底ほっとしていた。
「私ならあいつを許す前に、一発ぶんなぐるけど」
この言葉にはアルトだけでなくメアも、ベイオンの機転に感心したほどだった。
* * * * *
この日からアルト、セリス、メアの三人は傭兵になるべく修練を重ねる日々を送ることになる。
ベイオンはたった一人で商人としての実務と勉強に取り組むことになった。
三人は傭兵ギルドで、一人は商業ギルドで将来を見据えた活動に奔走した。
彼ら四人には共通する部分があったようだ。
それは一度これと決めたら、その目標に向かって懸命に取り組めるところだった。
少年少女たちは勉強にも訓練にも、ときには遊びも仕事もこなしながら、毎日を真剣に、愉しくすごしていた。
彼らにはわからないことだが、その美しい日々を、のちに輝かしい日々だったと思い出すだろう。
若いころに一所懸命に取り組んだ大人への道のり。それは彼らが思う以上に価値のある、美しさと有益さと、誇りに満ちたものになるのだ。
たゆまずにつづけた努力の一歩一歩が彼らに色をつけ、形を形成してゆく。──それは心のかたち。
いつか大きくはばたくための、少年少女の健全な努力の積み重ねが、彼ら自身の心と体の成長に大きな価値を与えるのだ。
雨の降る日も、強い風が吹き荒れる日も。
彼らは過酷とも思える訓練の日々に身を置いた。
その姿を見守る教官たちも舌を巻くほどに彼らの努力する姿は、大人たちの胸を打った。
強い決意をもって訓練に励む少年少女らを見守っていた傭兵ギルドの長も、彼らにために何かしてやろうと思うほどに。
こうしてアルトたち三人の訓練の日々は、二年にわたってつづけられた。
────そして、彼らが十二歳になったときに、思いも寄らぬ出来事が巻き起こるのである。
第一部「幼なじみの誓い」はここで終幕。
第二部を待っていていただければさいわいです。
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