戦技
その後もことあるごとにその少年はセリスにからんでくるようになった。
それも基礎運動や短距離走など、あらゆる訓練で対抗しようとしてきたが、そのすべてにおいて少年は少女を上回ることができずにいた。
さすがにここまで負けがつづけば相手の力を認め、自らの未熟さを認めるのが本来あるべき姿だが、そうはならなかった。
その少年は今度はセリスの前でイヤミを言ったり、悪口を言うようになっていったのだった。
「バカは相手にするだけムダ」
少年が陰口をたたいているところを目撃したメアが、少年に抗議しようとしたときにセリスが口にした言葉がそれだ。
少年の名をアンデムといったが、セリスはとうの昔に愛想を尽かしていた。
彼の戦闘能力はそこそこだったが、その少年には他人に見せびらかすだけの技術しかなく、黒魔と戦うだけの意志も覚悟ももちあわせていないと見えたのだ。
「おれはアスールの加護をえて、戦技を使えるようになったんだ」
と、自慢げに話しているところにセリスが通りかかった。
すると少年はセリスに対し「おまえの戦技はなんだよ? おれは『空裂斬』を使えるんだぞ!」と勝ち誇った。
すると彼女はいたって冷静に「そうなの、すごいわね」とだけ返事をしたのだった。
「おれは話したぞ、おまえの戦技を教えろよ」
「あら、そちらが勝手に話したのでしょう。私は手のうちを簡単に明かしたりはしないわ」
「なんだよ、戦技も使えないのか」
「ご想像にお任せします」
バカにされたと感じたアンデムは怒り、自分が試合負けたことも忘れて、今度は戦技を使った試合をしようと言ってきた。
「アンデム、それはまずいよ。教官も戦技を使用した試合はダメだと言っていたよ」と、アンデムの友人が止めにはいる。
「かまうもんか。木剣での空裂斬はそんなに斬れるもんじゃないし」
「空裂斬って何?」
セリスのうしろからそっとアルトが尋ねた。
空裂斬とは戦技のひとつで、薙ぎ払った武器から空気を引き裂く刃が飛ぶ技だ。
少女がアルトに説明し終えると、アンデムは意気揚々と木剣を取るようセリスに迫る。
「私はやらないわよ」
「なんだよ、ビビってんのかぁ?」
そんな見え透いた挑発に彼女が乗るはずもなく、背を向けてその場を去ろうとしたが、彼女は不意に立ち止まり「いいわよ。やりましょうか」と、態度を変えた。
アンデムは「挑発に乗ってきた」とでも思ったのか、得意げな笑みを浮かべていた。
「いいの? 戦技は使っちゃダメなんでしょ?」とアルトは心配そうにセリスに声をかける。
「大丈夫よ、ちょっと試したいだけだから」
セリスはいつもと変わらぬ自信に満ちた顔で言うと、木剣を手にした。




