四人の友だち関係
なぐられたベイオンはほほを押さえながら、ぽかんとした表情で、去って行った友人の背中を見送っていた。
大きな声で泣いていたメアはぐずぐずと泣き声を押し殺しながら、編み籠を抱いてアルトを追いかけて行く。
家の前にはベイオンとセリスの二人だけが残された。
「ベイオン」
セリスは怒っていたが、先ほどよりもいくぶん落ち着いた様子を見せていた。彼女の怒りはアルトの言葉を聞いたおかげで、だいぶ溜飲が下がったようだ。
「あなたとは馬が合わないとずっと思っていた。その理由はアルトがいま言った言葉にぜんぶあったと思う。あなたは意味もなく増長し、他人を見下すことにばかり執着していた。なんの努力もせずにただひたすら見下せる相手を探し、バカにすることだけを考えているみたいにね。
そんなあなたに私も愛想が尽きたわ。──さようなら、ベイオン」
少女は決別宣言をすると、くるりときびすを返しその場から去って行った。
あとに残されたベイオンは玄関前に座り込んだまま、声も出さずに涙を流し、やがて小さな嗚咽をもらして泣き出してしまった。
アルトは怒りにまかせて駆け出していた。
自分の中に発生した慣れない感情を振り切ろうとしているように。
少年は走りながら、ベイオンをなぐったときのことを思い返していた。
ベイオンや町の子供と喧嘩になったことは何度かあった。
あまり感情的になることのないアルトだが、なぐり合いに発展することもあった。
しかしアルトのパンチは貧弱で、相手をなぐっても倒せたことは一度もなく、彼はそのうち自分の力のなさを知って、極力喧嘩になるような発言を控えるようになっていた。
(あ、そういえばぼくの能力に「筋力強化」っていうのがあったっけ……。あれって、メアに手を強くにぎられたときに……)
技能表示ができるようになったのを思い出すと、少年は人のいない裏路地に入り、小さな公園に向かいながら頭の中に技能表示を展開させた。
そこには確かに「筋力強化」の文字が浮かんでいた。
メアが使った加護の力をいつの間にか手に入れていたのだ。
少年はよろこぶよりも驚いていた。
こんなふうに見たり触れたりしただけで能力を自分のものにできるとしたら、気づかないうちに技能を手に入れてしまうかもしれない。
その事実は少年に言い知れない不安を感じさせた。
ベイオンあたりならよろこんでこの加護の力を使い、他人の力を自分のものにしていくだろうが、アルトにはすぎた力に対する恐怖に似た感情が増すばかりだったのだ。
(神様はどうしてぼくに、この加護を与えたんだろう)
少年はそんなことばかり考えてしまう。
加護を与えられずに卑屈になってしまったベイオンを見たあとでは、余計にそんなことを考えずにはいられなかった。




