ふてくされるベイオン
思い込みは物事を見えなくしてしまう心理的な毒。毒は当然その本人をもっとも苦しめる。
「何しに来たんだよ」
玄関のドアを開けて姿を見せたベイオンが最初に口にした言葉がそれだった。
少年の顔は憔悴した雰囲気はなく、むしろとげとげしい、険悪な様相をしていた。
「ベイオン、いっしょにおやつを食べよう」と、メアはまったく屈託のない、ふだんと変わらぬ調子で言った。
いつものベイオンだったら嫌みのひとつも口にするが、拒絶することはしなかっただろう。しかしこの日のベイオンは急に声を荒げ、三人の友人たちをまるで仇敵を見るような目でにらみつけた。
「おやつだって? はッ! どこまでぼくをバカにする気なんだ、おまえという奴は!」
いきなり烈火のごとく怒りだした友人を前に、メアはきょとんとしていた。まったく予想だにしない反応を返したベイオンをぽかんとした様子で見ていると、さらに少年は激昂し、顔を真っ赤にして怒りをあらわにする。
「おまえらはいいよなァ! 洗礼式で加護をもらえて! それでおまえらはぼくを笑いにでも来たのか? 加護以外なんの取り柄もないおまえらが、ぼくを笑い物にするために!!」
「ベイオン? いったい何を言っているの?」
メアは戸惑った様子で少年に言ったが、逆上した彼には相手の様子がまったく違ったものに見えているようで、さらに怒りを激化させていく。
「うるさいうるさい! おまえらの顔なんて見たくもない! どっか行っちまえ!」
少年は怒鳴りながらメアを突き飛ばした。少女は後ろ向きに数歩下がったところで尻もちをついた。彼女が持っていた編み籠のふたが開き、中に入っていたビスケット数枚が敷石の上に転がった。
そしてその場で少女は大きな声をあげて泣き出してしまったのだった。
「ベイオン! あんたねぇ……!」
セリスがメアに駆け寄り、彼女を立たせながら怒気をはらんだ声を出した。鋭い目で少年をにらみつけると、いまにもなぐりかからんとするような顔をする。
ところが彼女よりも早く行動にでた者がいた。
「うあッ!」
ほほをなぐられたベイオンが玄関前に倒れ込んだ。
彼をなぐったのはアルトだった。
少年の顔は友人たちがいままで見たことがないほど怒りをあらわにしていた。
いつも温厚で、暴力を嫌う少年だったが、今回ばかりは黙っていられないというふうに、彼は倒れたベイオンをにらむと、大きな声でまくし立てた。
「いいかげんにしろ! メアは君を心配して来てくれたんじゃないか! それを加護以外なんの取り柄もない、だって!? それはむしろ君自身のことなんじゃないのか!
君はいつもメアやぼくを下に見ていたじゃないか。それは君が裕福な商人の家の子供で、自分の家族が与えてくれる環境にあぐらをかいているだけ。君自身が何かをしたくて行動したことがあったかい? いつも君は『自分は商人になるんだ』と言うだけで、何も努力してこなかったじゃないか! そんな君が、生活費を稼ぐために編み籠を造ったり、革財布を造ったりできるようになったメアをバカにする資格なんてない!
もう君にはうんざりだ! 家族にも友だちにも感謝の気持ちをなくした君は、良き隣人ですらない! 君とはもう絶交だ!!」
アルトは息を切らせながら言い終えると、三人に背を向けてその場から走り出してしまった。




