ベイオンの家
ベイオンの家は富裕層の住む区画のはずれにあった。
そこは細い道をはさんで、庶民の軒先が並ぶ場所のすぐ近くにあり、ベイオン少年は富裕層の子供とも、庶民の子供とも接点を持つ環境で暮らしていた。
ベイオンという少年は、富裕層に住む子供からは「商人の子」という目で見られ、成金の一人息子という格下の扱いを受けていた。
その反動なのか、庶民の子供に対しては──メアやアルトに対しても──自分は豪商の子供だと、かなり誇張した感じで財力をひけらかし、多くの子供や大人から「嫌な子供」として認知されていた。
アルトはそんな少年とも忍耐強く付き合える性格をしており、メアは嫌味を言われてもなんとも思わないような性格で、彼のことを受け入れていたのだった。
一方セリスはというと、かなり早い段階からベイオンに対する不満を感じており、いまでは彼との付き合い方を「アルトとメアの友人」という位置に落ち着かせていた。
「あんな男、放っておけばいいんです」
先を歩きはじめたメアのあとを追いながら、並んで歩いているアルトに不満をこぼすセリス。
「ま、まあまあ……。あれでいいところもあるんだから」
「たとえばどんな?」
「え──と、そうだな……」
改めて問われると、少年にはすぐに答えが出せなかった。
ちらりと横を歩く少女の顔をうかがうと「ほらみなさい」とでも言いそうな冷たい目をしている。
「ええと、そうそう。商品を作る過程で出る端材をメアにあげたりしてるよ。それでメアは財布や小さなカバンを造ったりしてるんだ」
「その端材を渡すときにやたらと恩着せがましく『くれてやる』みたいな態度をしてね」
「う……」
それ以上少年には言い返せる言葉がなかった。
できればセリスとの会話の中ではベイオンのことに触れないでいよう、そんなふうに再認識するアルトだった。
そうこうしているうちに三人はベイオンの家までやって来た。
敷地を囲む白い壁につけられた黒い鉄の門を開けて玄関まで来ると、メアはためらうことなく真鍮のノッカーをたたいた。
「は──い。あらメアレーズちゃん来てくれたのね」
「ベイオンはいますか」
「え、ええ……いるにはいるんだけど」
玄関に顔を出した少年の母親は、いつもの三人の子供たちの姿を見て、困った顔をした。
もし玄関の近くにいたのがセリスだったら、「間の悪い時に来たようですね」とでも言い残してきびすを返していたかもしれない。
二人の友だちは玄関からすこし離れたところで待っていた。その姿は「メアの付き添いで来た」と無言の主張をしている様子だ。
ベイオンの母は「ちょっと待っててね」と言ってドアを閉めた。
メアはくるりと振り返ると、離れたところにいる二人を手招きする。
呼ばれた少年と少女はしかたないといった感じで、玄関までつづく敷石の上を歩いて行った。




