神と加護
翌朝、少年は両親と共に神殿に向かうために家を出た。
少年の家族は一般的な市民であり、貧しくも裕福でもない家庭だった。
父は希有な技術を持つ鍛冶職人ではあったが、その能力を活かす仕事が舞い込むことはほとんどなかったのである。
何しろ彼らの住んでいる町は、首都から離れた場所にある小さな町であり、迷宮などがあって探索者がやって来るような場所ではなかったからだ。
ロベルトは頑なに故郷であるメイカムの町を出ようとしなかった。彼は戦士に憧れていたかもしれないが、冒険に出て世界中を旅するような根性は持ち合わせていなかった。
「おまえはどの神様の加護がほしいんだ?」
思い出したように父は少年に尋ねた。彼は自分の子供が戦闘の神の加護を得られればいいな、くらいにしか考えていなかった。
「う──ん。どうかな、わかんない。けど、戦闘の神はイヤかな……」
「なんでだ、戦いの神様の加護を与えられれば、ギルドで重宝されるぞ」
少年はいろいろな大人から加護に関する話を耳にしていたが、どれもあまりぴんとこなかったらしい。
戦闘の神であっても生命の神であっても、同じような能力を授けられることもある。あるいは複数の加護を与えられるといったこともあるようだが、そうした例外的な人物は多くの場合、それなりに人から注目されることがあるのだった。
少年はできれば目立ちたくないと考えがちな性格だったので、戦闘の神よりも知恵の神の加護をこっそりと求めるくらいの気持ちだった。
「あと、幸運の神の加護は──イヤかも」
子供が口にしたその言葉は、ぶつぶつとアスール神の加護について語っていた父親の耳には入らなかったようだ。
幸運の神はあまり加護を人に与えないというので有名だった。数百人に一人いるかいないかくらいの確率であるため、幸運の神の紋章を体に発現させただけで、それなりに注目されることがあるのだ。
神の加護は痣のような物で判別可能になる。
たいていは手の甲や肩などに現れるが、額に出る者や背中に現れる者もいる。
赤い紋章の戦闘の神アスール。
黒い紋章の創造の神グライク。
青い紋章の知恵の神オルニス。
だいだい色の生命の神イシュル。
そして──金色の幸運の神ヘレイスといった具合に、痣の色でも判別ができるようになっていた。




