剣の稽古
傭兵ギルドの訓練施設の入り口で木剣を借りると、セリスとアルトは高い壁に囲まれた訓練場に入って行った。
砂が敷かれた広場に数名の若い訓練生がいたが、二人のような十歳の子供の姿は見当たらない。
子供なら傭兵の志願者でなくとも施設を利用することはできるのだが、子供だけで積極的に訓練場を利用しようとするのはセリスくらいのものかもしれない。
二人はほかの人たちから離れたところまで移動すると、セリスは木剣をかまえた。そしてアルトにもかまえるように視線で合図を送る。
少年は気乗りしない様子でおそるおそる木剣をかまえた。
「攻撃してきて」
セリスはいたって落ち着いた声と態度で言った。
少年は何度もこうした訓練に付き合ってきた。
どんなに鋭い攻撃をしてみせたところで躱されるか、手にした得物で攻撃をそらされるのがおちだった。
今回アルトは踏み込むと同時にすばやい攻撃をくり出すよう心がけたつもりだったが、セリスは縦に振り下ろされた攻撃をあっさりと躱し、木剣をにぎっている根本の部分を打って少年の手から武器を落とさせた。
それだけにとどまらずセリスは木剣を落としたアルトに迫ると、少年ののど元に剣を押し当てた。
「ま、まいった」
「アルト、前に言ったでしょう。たとえ剣を落とされたとしても、そこで負けが決まるわけじゃないと。相手の腕を取って投げたり、武器を奪い取ることを考えないと」
「う、うん……」
そうは言うが、セリスの鋭い攻撃で剣を落とされても反撃に移れるほどの豪胆さを、少年に求めるのは酷というものだ。
彼女もそこまでの動きを期待しているわけではないだろうが、いざというときに備えておく心がまえを持ってもらおうと、つねづね厳しく少年に教え諭していた。
その後も二人の訓練はつづいた。
決まったいくつかの動きを確認し、攻撃に対する防御。攻撃を受け流してからの反撃。そういった一連の流れをくり返していると、セリスの動きや判断がいつもよりも速いことにアルトは気づいた。
「加護の力のせいかな? 前よりも動きが鋭くなってるね」
「そうでしょう? それに相手の動きも読めてきて、動き出しも速くなってると思う。この感覚の鋭さがあれば、機先を制して相手を制圧するのが簡単になるわ」
ひと休みしている少年の横で彼女は木剣を振りつづけている。
その剣筋は大人と比べてみても遜色がない。
鋭く振り下ろされた木剣から鳴る、空気を斬る音を聴きながらアルトは、自分ももうすこし練習しようとセリスの横に並んで、木剣の素振りをはじめるのだった。




