セリスの胸中は
セリスには打算があった。
アルトが希有な加護を与えられたのは間違いなく、それはきっと強力な能力を発揮するはずだと。
その力がどんなものであれ、きっと黒魔との戦いにも役立つはずだと。
問題は気弱なアルトの性格だった。
彼女は何度も彼の弱い心を鍛え直そうと、運動を通じて心身の強化を図ってきた。──残念ながら彼女の計画は、うまい進展を見せているとは言いがたかったが。
もうなかばあきらめかけていたセリスだったが、あの虹色の光を見たあとでは、彼女は当初の予定よりも遥かに固い決意を胸に、少年の心を鍛えにかかるつもりでいた。
気持ちの半分は「友だちを自分の都合に巻き込もうとしている」といった想いを抱きながらも、やはりあの強烈な洗礼式の光景を目の当たりにしては、その気持ちも脇へと追いやらなければと思うのであった。
(アルトの加護は絶対にすごい力を秘めている)
その核心が少女の中にはあった。
セリスは加護の能力によって、相手の力量をなんとなく感じることができるようになっていたのだ。
加護の内容までは理解できないが、アルトの身体から放たれる気配が以前の彼と違っていることは、彼女の戦士の勘からしてもはっきりと感じられるくらいだった。
(いったい、どんな加護の能力なの)
彼女はそれを見極めたいと思いつつ、謎めいた幸運の神という存在が気にかかっていた。
幸運の神とは言われているが、世間ではかげで「不運の神」などと揶揄されることがあるほど、その加護の力によって不運に見舞われることがあると考えられているのだ。
それが加護を持った者に降りかかる災難なのか、それとも加護を持った者の周囲にいる人に降りかかるものなのかはわからないが。
(与えた加護を探ろうとする者に不運を招いたりするかも)
そうした不安要素もあるものの、アルトの手に入れた加護の力によっては、ぜひとも自分と組んで傭兵ギルドに加わるなり、旅の同行者として一緒に世界をめぐりたいと考えているのだった。
「もう私たち、十歳よ」セリスは唐突に言った。
「うん」
「この町にずっととどまりつづけて、たまに中央に遊びに行ったりで、それで満足するつもり?」
「そ、そうは言わないけど。──十四で旅に出るなんて。それに黒魔と戦うなんて、ぼくには無理だよ」
「無理じゃない。やってもいないのに無理って決めつけてはダメ」
こうした会話も何度目だろうかと少女は思いながら、颯爽と少年の前を歩いて行く。
「あなたはきっとすばらしい加護を神様からいただいたはず。それを見せてもらうわよ」
裏路地からすこし大きな通りに出ると、騎竜馬が荷車を引いて目の前を通過した。
二足歩行する騎竜馬は小柄ながら脚力があり、重い鎧を身に着けた大人を乗せてもかなりの速度で走ることができる。
その姿は大型のトカゲが二本の足で歩行しているように見えた。──ちなみに四本足の「獣竜馬」は騎竜馬よりも大きな個体が多く、一頭で大きな木製の戦車を引くこともできるのだ──
騎竜馬が走って行った道の先に剣と鎧の看板があり、傭兵たちが建物の中から出て来ては、道に停められた荷車に乗り込んでいく。
アルトはセリスに強引につれられて、ギルドの裏手にある訓練施設に入って行った。




