ヘレイスの加護の秘密
アルトはセリスの家でリンゴのパイ包みを食べながら考え込んでいた。
少年には自分が与えられた加護について、なんとなく思い当たる答えが見えてきていた。
──もし、そうだとすると──
少年はぽかんと口を開けて青い空を見上げた。
だがその青い空も、庭先で食べている焼き菓子も、少年の心を落ち着かせる効果はなかったようだ。
「アルトったら、何をぼんやりしているの?」
「どんな加護を得られたか、わかったのかい」
少年の母やセリスの父が問いかけてもアルトは上の空で、自動人形のようにフォークでパイを突き刺すと、それを口に運んでいた。
(ぼくが与えられた加護はまさか……)
少年は右手にある金色の紋章を見た。
聖なる短刀を見たときに少年は「鑑定士みたく鑑定できれば」と考えた。するとその意志に応えるように、彼の頭の中に手にした短刀の本質が見えてきたのだ。
それは鑑定の能力だったが、それだけがヘレイスの恵みたる加護の力ではないというのは、少年には理解できていた。
(ぼくの加護は、他人の加護の力と同じものを修得できる、というものなんじゃないか?)
もしそうなら、それはとんでもない能力の持ち主になる。そのことはアルトにも簡単に想像できた。
どれくらいの制限があり、あるいはどのようにすればヘレイスの加護の力を発現できるのかはわからなかったが、この加護のことが他人にバレるのはまずいと、子供心に理解していた。
もし制限なく他人の加護の力を獲得できるなら、戦士にだってなれるし、音楽家にだってなれるだろうし、立派な職人だって目指せる。
少年はそんなことを思っていたが、もし少年が野心家で、他人の幸福よりも自分の幸福を第一に考えるような性格だったなら、彼の与えられた加護の力を使い、あらゆるわがままを叶えるようになるだろう。
自分の望む加護の持ち主と出会い、その人物から加護の力を取得できれば、たいていのことは他人よりうまくやれるようになるのだ。
しかしアルトという少年は気弱で、できればあまり目立ちたくない気質の持ち主で、他人を思いやることのできる、優しい少年だったのである。
(いちおうこの加護の研究をしてみよう)
まずはどのようにして他人の加護の力を扱えるようになるのか、そこから実験してみよう。少年はそのように結論をだし、パイをフォークで持ち上げようとしたとき、リンゴパイが皿の上から消えていることに気がついた。




