アルトの加護の発現
もやもやした気持ちのまま、アルトは商業ギルドをあとにした。
二人の少女たちは互いの加護について納得していたようだが、アルトは幸運の神ヘレイスに対して疑いの気持ちを抱いていたので、不安はさらに募っていたのだ。
少年がヘレイスに対して疑念を抱くようになったのは、幸運の背後にはたいてい不運が隠れひそんでいると知ったからだった。
特に彼は、賭けごとにのめり込む大人が大嫌いだったのが一番の理由だった。
以前に賭博好きの父親を持つ友だちがいて、その子供の曇った表情が脳裏にこびりついて離れずにいた。その父親はついに妻と子供を捨てて姿をくらましたあげく、借金をその妻に押しつけていったのだ。
(そんな奴はクズだ)
その父親の口癖が「ヘレイスの幸運を」というものだったのも、少年がヘレイスの名を嫌う一因となったのは言うまでもない。
いま思い出しても腹が立つ。少年はそのように思うが、その友人になんの手助けもしてやれない自分も、彼は嫌いになっていったのかもしれない。いつまで経っても自信が持てないでいるのは、そうした経験が彼の心を萎縮させた結果なのだとも思われた。
「どうかした?」
暗い表情をしていたアルトに、セリスが静かに声をかける。
「な、なんでもないよ」
すぐ近くまで顔を近づけてきた少女にどきどきしながら、彼は道沿いの商店などに目をやった。
「あ、そぅだ。この先の道を曲がったところに新しい雑貨屋みたいのができたんだよ。行ってみる?」
メアの言葉にセリスは頷き、三人はその店に向かうことにした。
路地裏にある小さな店はドアの上に看板をかかげていた。
セリスは率先して店の中に入って行く。そのあとをメアが追いかけ、アルトは最後に店の中へと入った。
「傭兵になるなら小物入れのかばんとかがあると便利よ。……メアなら自分で作れるか」
「ベルトに付ける小さなかばん? それくらいなら作れるよぉ」
「あとは……やっぱり武器かな」
セリスはそう言うと「いい短刀とかないかな」と、店の奥に向かう。
そこには大きな展示箱の中に数本の短刀があり、小さな木板に短刀の材質や値段が書かれていた。
そこには特別感のある装飾が施された短刀が一本置かれていた。
木板には「聖なる短刀」と書かれている。
「神殿の神官が邪悪な霊を倒すための力を込めた短刀ね。本物かな……」
セリスは疑っているようだ。店で売られることもあるが、たいていの人はそうした価値のある物を手放さないものだ。
「もちろん本物だとも。見習い神官が持ってきた物だからね」と、店主がカウンターの向こうから声をかけてきた。
「ほんとかな?」
「神官見習いが持ってきたからといって、本物とは限らないでしょ」
メアとセリスはそんなことを小声で言いあっている。
「あの鑑定士みたく、鑑定できればなぁ」などとアルトは口にしながら、聖なる短刀を手にしてみた。
するとどうだろう。少年の頭の中に幻像が見えた。それは銀色の短刀を見ていると浮かび上がる文字らしきもので、だんだんとそれが自分の思考と結びつき、短刀は銀メッキの模造品で、聖なる力を持たない短刀だと示していた。
「これは……偽物だ」
ぼそりとつぶやいたアルトを二人の少女が視線を向けた。「なんでわかるの?」と口にしようとして、あまりに真剣な表情で短刀をにらみつけている少年の横顔に、彼女たちは言葉を失っていた。
少年の表情には恐れや戸惑いが表れていたのを、少女たちは見逃さなかった。




