第82話 借りを返す
「うりゃあああっ!!」
「来た来た、内角が! 今度も当たり……がいやぁ!?」
ズバンッ!!
「……ストライク! バッターアウト!」
真自由学園との決勝戦は1−4と3点ビハインドのまま2回表ツーアウトで、相手の1番バッター『当たり屋』金盛との2度目の対戦だったのだが。
外角2球をファウルさせて追い込んだあと、内角がズバッと決まって三球三振に仕留めたところだ。
正確にはわずかにシュート回転して内角をかすめていくフロントドア。
左腕の角度と投げるタイミングを少しずらしてワザと投げたが、多用すると制球が乱れてくるので本音ではやりたくなかった……。
だが2度も同じ手を食うわけにはいかない。金盛の手口……身体を回転させて避けつつ巧妙に当たりにくるのを肩透かしさせてやった。
「かあ〜! あんなん使ってくるとは、怪物のくせに思ったよりも小賢しい。でも次はこうはいかんぞいや! だらぁ!」
「へっ。あーそうですか」
金盛のやたら悔しがる姿を見て、さっきの借りは返したとスッキリした。そしてあとの全ての打席もキッチリおさえてやる。
こうやって相手のムードメーカーっぽい金盛の出塁を封じて球数も抑えれば、必ずこっちにリズムが生まれて流れが来る。
そのハズだったんだけど……。
◇
「ストライク! バッターアウト!」
「おっしゃ! 2番手ピッチャーの箸本がズバンッ!! と力強いストレート連発だぁ!」
「ちくしょう〜! こっちに来そうな流れを断ち切られた!」
あーあ。スタンドの歓声の勢いが今の試合の流れをそのまま表してるよ。
毎試合ブルペンデー的な投手運用をする真自由学園は早くもこの回、スパッとピッチャーを替えてそれがズバリ的中したのだ。
登板した箸本は180センチ後半はありそうな長身右腕で角度のあるストレートで押しまくり、スライダー主体だった先発とのギャップでウチの打線は完全に翻弄され打てる気配が無い。
結局、2回裏のウチの攻撃は三者凡退に終わったのである。
まあ嘆いていても仕方がない。マウンドへボチボチ行こう……とベンチから出たところでしょーたが声をかけてきた。
「オージロウ! この回を抑えられるかどうかで試合の行方がどうなるか、だいぶ変わってくるぞ」
「わかってるって。相手の2、3、4番を完全に抑えて5番の柄冬まで回さないようにしねーとな」
「それはいいけど、だからって球数のこと考えずに押していくのはどうかと思ってさ」
うーん、またその話の蒸し返しか。
高校野球は1週間に500球と一応は制限があって、オレは3回戦からの累積が400球近く。
それもあって投げ急いだのが1回表に点をとられた原因の一つだってのはわかってる。だけど。
「いたずらに球数かけてもリズムが悪くなるだけだ。基本はやっぱりストライク先行なんじゃないの?」
「それも一理あるけどさ。オージロウの場合は変化球が無いから、今日みたいに170キロでも当ててくるバッターが揃ってると粘って球数増やされるぞ」
「じゃあどうすんだよ」
「ここはどうしても必要だとおれが思ったら、ボールゾーンへ投げるサイン出すから。首を振らずに投げてほしいんだ」
「えー、でも」
「もちろん無駄に要求しないから……頼むよ」
「……わかった。その方がテンポ良くなるし」
「それで決まりな! この回もバッチリ締めていこうぜ!」
なんか一方的にしょーたの要望を通されてしまった。だけど先制点を許してしまったオレに反論する材料は無いから、ここは従おう。
そしてマウンドに立ったオレに対してこの回先頭のバッターは……。
ブンッ!
「いいぞ福到〜! その鋭いスイングでヒットかっ飛ばせ〜!」
「いやどうせなら2塁打、いや3塁打頼む〜!」
左打席に入る直前に小気味良く鋭い素振りを披露した福到だ。
前の打席は送りバントだったけどバットコントロールに優れて長打も狙えるらしい。ノーアウトだし狙ってくるかも……それならここは力勝負で。
そう考えながらしょーたからのサインを覗き込み、すぐにノーワインドアップで初球を投げ込む!
「うりゃあああっ!!」
「転がすのに絶好球じゃっど……いや違うけ!?」
ズバンッ!!
「……ボール!」
なんといきなりのセーフティバント!
しょーたはそれを読んでたのか、初球のサインは外角低めのボールゾーンだった。
そして福到も選球眼が優れている。サード方向へ転がしやすいコースだったのに直前でサッとバットを引きやがった。
ファウルにさせてストライクを稼げなかったのは残念だけど、ここは気持ちを切り替えよう。
2球目は……そっちでストライク稼ごうってか。
「うりゃあああっ!!」
「外角高め……レフト線へ狙い打ちじゃっど!」
バコーンッ!
「ファウル! カウント1−1!」
高めにノビる170キロでも付いてくるのか。どうなってんだよいったい。
もしかして170キロ台が出るピッチングマシンで特訓してきたのか。真自由学園はかつて春夏連覇も達成した名門私学だからそういうの持ってても不思議じゃない。
でもそれにしたってわかってるかのように……いやまさか。
3球目は……首は振らないけど、手元が狂ったことにしよう。
「うりゃあああっ!!」
「内角……じゃっど!?」
ズバンッ!!
「ストライク!」
まさかがやっぱりに変わった瞬間だった。
要求は内角低めボールゾーン。で、実際に投げたのは内角ストライクゾーン内で高さは相手のベルト付近。つまり打ち頃の高さだ。
なのに福到は明らかに反応できなかった。逆に言えば低めと高めはあらかじめ判別できてるってことだ。
オレの投球フォームにクセでも出てるんだろうか? 今すぐにそれを見つけるのは難しいけど、ネタがわかれば対処のしようもある。
「オージロウ!」
おっと、しょーたがちょっと怒ってる。すまねーなと苦笑いを返しつつパシッと小気味良く返球を受け取って誤魔化す。
だけど、さっきのでしょーたも気がついたようだ。その証拠に4球目は……。
ではいくか。軸足に溜めを作りつつ、スッと右足を踏み出して。
力強く、かつコンパクトにスリークォーターの角度で左腕を振り下ろす!
「うりゃあああっ!!」
「続けて同じところに……ナメんながよ! ちぃえええっ!!」
ズバンッ!!
「ストライク! バッターアウト!」
「よし! この回も先頭をアウトに仕留めた!」
「福到があんなに振り遅れて空振るなんて……!」
この回も好スタートを切れた。次はさっきタイムリー3塁打を打たれた3番ナギータ。
もちろん借りはキッチリ返さねえとな……!




