第81話 毎試合がブルペンデー
「うりゃあああっ!!」
ズバンッ!!
「ストライク! バッターアウト!」
ふう……連続三振を奪って、ようやく1回表の真自由学園の攻撃を終わらせることができた。
だが、いきなりの4失点。決勝戦という大舞台でこれはビハインドとしてかなり重い。
立ち上がりで制球も球威も不安定だった。
そこへ相手トップバッターの『当たり屋』金盛の狙い通りにデッドボールを与えてしまって、動揺してリズムを狂わされた。
それと3番ナギータの変則打法とパワー、4番の喜与間の1年生とは思えぬ読みとシブいチームバッティングで次々と失点を重ねた。
トドメに5番DHの柄冬の異様な威圧感。気を当てられて腕が縮こまって、誘導されたかのように相手が狙うコースへとストライクを取りに行って……。
走者が一掃されたあとは、憑いていたモノが取れたみたいにボールが走り始めたけど。手遅れなんだよなあ。
まさに独り相撲、劇場でこの有様。さすがに申し訳ないと思って、ベンチへトボトボと歩いていく。
「オージロウ!」
しょーたの声が後ろから聞こえる。何やってんだと怒鳴られるなこりゃ。
と思いきや。
「その、なんだ。終わったことは仕方がない、気を取り直していこう」
「……お、おう」
それだけで先にベンチへと駆けていったが、どうしたというんだ?
そして阿戸さんを始めとした他のメンバーからも声をかけられたのだが。
「さすがによぉ、決勝戦の相手は今までと違う強さだぜぇ。だからしょーがねえよ」
「そうだっぴょ、落ち込むことなんてないっぴょ!」
「俺らはさあ、ここまで来れただけで満足してるんだ。連合チームが甲子園の決勝なんて、今でも夢見てるみてーだよ」
「それもこれもオージロウの活躍があってこそ。本当に感謝してるんだぜ?」
みんな……いつもと違って優しいなあ。
そうだよな、部員不足で寄り集まった5校連合チームがここまでたどり着いただけで奇跡的なことなんだ。
古池監督も何も言わず見守ってくれてるし。
姉ちゃんからは『ここまで来たら優勝!』とノルマを課されたけど、実際に家に帰ったら『よく頑張った、えらい!』と褒めてくれるに違いない。
だからあとはもう、気を張らずに楽しもう。
気持ちを切り替えてベンチに腰を下ろすと、また相手側スタンドがわあーっと盛り上がってる。
「今日も『ケンマエ体操』見せてくれよな〜!」
「あれ見るとこっちまで身体動かしたくなってムズムズする〜!」
ケンマエ体操? なんだそりゃ。
その疑問はマウンドを見るとすぐにわかった。
先発ピッチャーらしき中肉中背の男が両腕を交互にヌルヌルと、そして激しくグルグルと肩から前後に回転させているのだ。
「もしかしてあれが体操? ひょっとしてアイツが1年生エースの」
「違うぞオージロウ。あの人は背番号18の控えピッチャー、健前だ」
「え? マジかよしょーた。なんでエースが出てこねえんだよ、決勝戦なのに」
「真自由学園は毎試合がブルペンデー……序盤は3、4人の控えピッチャーが短いイニングで継投して、中盤から1年生エースの鍬形、終盤はリリーフエース柄冬と繋いでいくのが勝ちパターン。って昨日のミーティングで聞いたろ?」
「そ、そうだったな。うっかり忘れてた、アハハ」
実際にはそもそも聞いた記憶がないのだが、しょーたが上手くフォローしてくれた。珍しく。
……なんか変だな。なんでそんなに気を使って……あっ!!
そうか。みんなオレに『気を使って』いたんだ。これは『優しい』とは違う。
確かにオレは投打の中心としてこのチームを決勝戦まで引っ張ってきた、それについては自負している。
だけどいつの間にかチームメイトに気を使わせてしまっていたなんて。
「ストライク! バッターアウト!」
おっと。先頭バッターの阿戸さんが空振り三振……結果はともかくスイングになんとなく覇気が感じられなかった。
「ドンマイっす阿戸さん!」
「ん? ああ、さすがに決勝戦に出てくるピッチャーは一味違うぜぇ。参った」
なんなんだこの諦めの良さは。
次のしょーたもイマイチ気合いが足りないような……ネクストサークルに向かいながらそればかり気になる。
「行くでえ! 俺のスライダーは初見では打てんわ! どりゃああっ!」
ケンマエも関西弁か。大阪出身の全国への『留学生』はとても多いらしいから、強豪私学ならチーム内に何人かいても不思議じゃない。
それはともかく、言うだけあって凄い切れ味だ。しょーたはわかっていても手が出てしまうのか、あっさりと連続の空振り。
そして3球目……。
ズバンッ!!
「ストライク! バッターアウト!」
うーん。やっぱりしょーたも粘り気がない。
「しょーた! どうしたんだいつもの粘りは?」
「ああ、スマン。でもさ、オージロウも気負わずに楽しんでこいよ。最後なんだから」
しょーたまであっさりと。こんなんで終わっていいのかよ?
いや良くない。というかこうなった原因は結局オレなんだ。
自分じゃわからなかったけど、打たれたあとベンチに戻るオレの姿はしょんぼりしていたに違いない。
それでみんな気を使って、おまけに諦めムードが広がって……クソッ!
顔を叩いて気合いを入れ直してから左打席に立つ。
初球の150キロ外角低めストレートはいいところに決まって見送り。
確かに速いが打てないボールじゃない。悪いがもう見切った。
そして2球目は……。
「うりゃあああっ!」
「ストライク! カウント0−2!」
「うおおーっ! いいぞケンマエ! 今日もスライダーがキレキレだあー!」
「怪物つってもウチの投手陣の前じゃ大したことねーな!」
内角低め、膝下に食い込んでくるスライダーを空振った。実際に打席で見ると、打ち頃のコースから一瞬消えたようにボールゾーンへと変化してくる。
ふーん。なるほどねえ。
そして3球目は……釣り球っぽい外角高めボールのストレート!
だけどなあ!
「うりゃあああっ!」
バシィーンッ!!
言ったろ、ストレートは見切ったって。いや心の中でだから聞こえてるわけねーか。
「うわああーっ! あんなの強引に打ち返すなんて! デカい!」
「でもレフト線から切れてファウルか! 惜しい!」
ちょっと踏み込みが足りなかったか。でもこれで次にヤツが投げるボールは決まった。
ここまでは余裕の表情だったのが一転、気持ちを集中した顔となったケンマエ。
おもむろにノーワインドアップ¥え始動して、歯を食いしばりながら全力でオレを仕留めにくる!
「ストレートは通じんかったけど、これは怪物でも初対戦では打てんで! どりゃあああっ!!」
内角低め……空振りを取りにきたキレキレのスライダー。
一瞬消える曲がり際で捉えるのは確かに難しい。でも、膝下まで曲がり切るのを待ってスイングすれば済むことだ!
「うりゃあああっ!!」
バッシィーーンッ!!
ゴルフスイングの如く跳ね上げた打球が右中間スタンド上段へとかっ飛んでいく。
我ながらいい感触だった……ふふふ。
「あんなのありかよ〜! 曲がり切ってから一瞬で、無茶苦茶速いスイングで打ち返すなんて!」
「あ、あんなの人間ワザじゃねーよ!」
「よっしゃああ! まだ5校連合チームは終わっちゃいねえ! 反撃開始だー!」
これで1−4。まだ3点リードを許してるけど、試合はまだ始まったばかり。
そしてベンチへ戻ったオレは、自分でも珍しく思うほどみんなに向かって叫んだ。
「まだまだこの試合は終わっちゃいねえ! そしてオレは優勝を諦めちゃいねえ! だからみんなも手を貸してくれ!!」
「お、オージロウがそう言うならいける気がしてきた」
「そうだな。俺らには連合チームが甲子園で初優勝という偉業のチャンスがあるんだ」
「こっから気合いを入れ直すぞお前らー!」
思い切って言ってよかった。みんなに気持ちが伝わって異様に盛り上がってる。
「オージロウくん。キミがそう言うのを待ってたよ」
古池監督がボソッと、でも笑顔で言ってくれた。変に気を使わず、されど突き放したりせずに。
これで甲子園の決勝戦というフワッとした雰囲気がウチのベンチから解消された。これからは反撃あるのみだぜ……!
<あとがき>
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次回更新は9月21日(月)の予定です




