第80話 ご苦労さん
真自由学園との決勝戦は、想定よりも強力な相手の攻撃力によって1回表で早くも2点を奪われてしまった。
立ち上がりで全開じゃないとはいえ、こんなことになるなんて……しかもこっちの判断が全て裏目に出てる。
そしてまだ一死一塁とランナーを残してる。
ここで迎えるバッターは5番DHの柄冬……パンチパーマに額の傷痕という、高校生としては迫力があり過ぎる姿を覆うようにヘルメットをかぶって左打席に入ってきた。
それにしてもなんなんだコイツ。これだけでこっちはすでに心拍数が上がっているのが嫌でもわかる。
オレにここまでのプレッシャーを与えるコイツはいったい……!
「おう、ボウズ。実は凄いボール投げとるんやな。画像で見るより間近で目にするボールはえげつない」
「……ああ、そうですか」
「だからこそ、ここはまだまだ点を取らせてもらう。ここで一気に畳みかけんとアカン、そんな気がするんや」
「……」
「ところでいつまでボーッとしとるんや? こっちはもう構えた。いつでも投げてきぃや!」
うーん。実際に柄冬が打席で構えると、どこでもバットに当てられそうで隙が見いだせない。
別にこれといった特徴のある構えじゃないんだけど、相手が持ってる威圧感がそう感じさせるのだろうか。
しかしここで怯んでいてはいけない。逆に言えば悪い流れを断ってこちらへ引き戻すチャンス。
というわけで初球は強気に内角高め!
「うりゃあああっ!」
「おっと。ちょっと危ないで」
ズバンッ!
「ボール!」
「おい! またぶつける気か!」
「余裕こいてないで、ちゃんと投げろよな!」
ストライクゾーンに決まらず、スタンドからブーイングを浴びせられた。
うっせーな、別にナメてなんかねーよ! それどころか慎重にコーナーを突いたはずなのに。
「オージロウ! 腕が縮こまってるぞ!」
キャッチャーのしょーたが声を出しながらボールを返してきた。やっぱそうなのか……ボールの走りがイマイチだと思ったんだ。
まさに◯ワプロの威圧感の如くピッチャーにデバフをかけてくるってか。
ここは落ち着け……大きく息を吸い込んで、吐いてからプレートを踏んでセットポジションに入る。
そしてランナーは気にしない。よく見るとランナーの喜与間も走塁より柄冬のバッティングの方に気持ちを持ってかれてる感じだし。
軸足に溜めを作りつつ、そこから一気に右足を踏み出して。
2球目もコーナーを突いていく!
「うりゃあああっ!!」
ズバンッ!!
「ストライク! カウント1−1!」
「いいぞオージロウ! ボールがきてる!」
しょーたからの返球を受け取ったがなんかスッキリしない。
振ってこねーな。見極めるというよりは黙って追い込みをかけられてるように感じる。
喜与間みたいに、こっちの想定外なボールを狙って誘導しているのだろうか。
しかし安易な力押しも嫌な予感がする。170キロ台が安定して出ないのだ。
これを払拭するには、強烈にノビてホップするいつものストレートが出ればいいのだが。まだ腕が少し縮こまっているのだろうか。
しかし悩んでいても3球目を投げねばならない。意を決してセットポジションから右足を踏み出し、左腕を振り切る!
「うりゃあああっ!!」
「まさに独り相撲やな。こっちと勝負してない」
「ボール!」
柄冬に痛い所を突かれた。それが制球に影響してる。
これまでも口や態度で威圧するバッターはいたけど、柄冬は違う。何もせずとも相手に勝手に考えさせる存在感がある。
ならばと追い込まれてからコーナーを気にせず全力で投げた4球目は……。
「うりゃあああっ!!」
「わかりやすいカウントで、狙い通りに投げてもろうてご苦労さんや! おどりゃあああっ!!」
バッシィーーンッ!!
「スゲー! 柄冬が170キロの内角高め引っ張りやがった!」
「ライトポールを巻くみたいに……入ったあああーッ!!」
あろうことか、オレは初回から4失点……重い先制パンチを食らわされてしまった。
<あとがき>
読んでいただいてありがとうございます
次回更新は9月18日(金)の予定です
※遅ればせながら、準決勝の登場キャラクターのモデルとさせていただいた張本さんの訃報に接し、心より哀悼の意を表します




