第79話 4番は1年生
「おい、キヨ! あのボウズの球、確かに速いけどお前やったら打てる。狙いを絞ってガツンとボールをシバくつもりでいくんや!」
「……ウッス。柄冬さん」
真自由学園との決勝戦は1回表で早くも先制点を許してしまった。
そして一死三塁の状況で相手の4番……1年生コンビの1人、喜与間を右打席に迎えようとしている。
まずはデカい。1年生にして既に190センチ近くありそうだ。
背後から5番DHで、パンチパーマに額の傷痕という迫力満点な姿の柄冬がダミ声を響かせアドバイスを送ったのだが、それにぶっきらぼうに答えて妙に落ち着いた態度というのがまた……。
一見するとまだまだあどけなさも残る1年坊って感じなのだが、もしかしたら一人称が『ワイ』とかの番長キャラだったりして。
そうだったらちょっとヤダな。と内心警戒してたら、喜与間はおもむろにヘルメットを脱いで……。
「あの、オージロウさん。自分は1年生の喜与間です。お手柔らかによろしくお願いします」
「お、おう。こ、こちらこそ」
拍子抜けするくらい礼儀正しく挨拶された。こっちの返答がしどろもどろになってカッコつかねえよ。
まあ、それはともかくとして。
打席でスッと構えた喜与間は、それほど肩ひじ張らず自然体に見える。
尚且つ、そこはかとなく漂う威圧感。
だけど本人のものだけじゃねえな。次に打席に立つ柄冬の威圧感も混じっている。
喜与間まで塁に出したら、それこそビッグイニングを作られそうな、そんな嫌な予感をさせられるほどに。
だがこれでビビっていたら試合にならない。自分のボールに自信を持って攻めなければ。
それにこの回先頭バッターの金盛にデッドボールを与えてからリズムが狂ってる。
だから、あえてゆったりとセットポジションに入って間を取って。
3塁ランナーを目で牽制しつつ、軸足に溜めを作ってから一気に右足を踏み出し、左腕を振り下ろす!
「うりゃあああっ!!」
ズバンッ!!
「ストライク!」
うっしゃ! 内角高めの良いところにきれいに決まった。
球速もいよいよ170キロに突入で、肩も十分に温まっている。
このまま押していけば問題ない。甘いところにいかなければ、そうそう打たれるはずがないんだ。
2球目は対角線の外角低めに投げ込む!
ズバンッ!!
「ストライク! カウント0−2!」
「おいおい! 手が出ねえのかよ、振る気配もないぞ喜与間のヤツ!」
「いよいよオージロウが全開だー! このまま三球三振いけー!」
そうだな、このまま押していこう……いや待てよ。
さっき3番のナギータに打たれたのは、あの独特な打ち方もだけどやっぱり『投げ急いだ』から。
球数を気にするあまり単調になったのは間違いない。おまけに金盛に当ててしまった影響で内角に投げにくかったのもあるし。
だけど内角については払拭できた。あとは喜与間の狙いがわからないので、得意の内角高めで勝負するにしても一度目先を変えておきたい。
それじゃ一球、外角ボールゾーンに7割くらいの力で外しておこう。よもやのスリーバントスクイズ対策にもなるし。
しょーたも納得しての配球で3球目……。
「うりゃああっ!」
「……こういうのを待ってたんすよ自分は!」
パシィーーンッ!!
嘘だろ!? 長いリーチとはいえ、完全なボール球をバットの先に乗せての軽打で……ライト前に!
「おっしゃああっ! 怪物から立て続けに2点目もぎ取ったー!!」
「さすが喜与間! 1年生なのにチームを勝たせるバッティングで、4番に座るのは伊達じゃねえ!」
あんな狙いをしてたとは。1年坊が真っ向勝負じゃなくてシブいチームバッティング……。
しかもあの体格で軽打でも外野に飛ばせることを生かして、オレが『全力で投げないボール』に絞るなんて。
準決勝の『回収屋』串島のトリッキーなクラッチヒッターぶりとはまた違う勝負強さには脱帽するしかねえよ。次はそうはいかねえけど。
さて、過ぎたことをクヨクヨしている暇はない。このあとは柄冬が打席に入る……ここで本当に相手の勢いを止めないと。
<あとがき>
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