第78話 規格外
「うわあっ! バットが弾き飛ばされそうじゃっど!」
真自由学園との決勝戦は1回表、相手の攻撃中なのだが。
先頭バッターの『当たり屋』金盛をデッドボールで塁に出してしまい、そのショックが覚めやらぬ中、2番バッター福到に送りバントを決められてしまった。
バットコントロールに優れた好打者というデータだったが、初回からやってくるとは……昔ながらの高校野球をやってるのか。
それとも後続打者によほど自信があるのか。
そして左打席に入ってきたのは190センチはあろうかというガッチリした男。
「金盛と福到に続け〜! ナギータ!」
「でけえの一発、頼んだぞ!!」
コイツも声援が凄いな。そして相手スタンドのブラスバンドの曲がここで変わった。なんか聞いたことある曲なんだけど、なんだっけ……。
「きたきた〜! ピンクソレルZの一番好きな曲じゃけえ……これ聴くと力が湧いてくるんじゃ!」
ああ、女子4人組のアイドルユニットだっけ。そういうのに疎いオレでも知ってる人気グループだ。
好きな曲を聴いて明らかに上機嫌のコイツの名は悠岐屋、下が確か凪太だったかな。だからナギータか。
そして雰囲気が変わった……まるでこっちを射抜くような鋭い眼差しに。
面白いじゃん。こういうバッターがまだいるってことにワクワクしている自分に気がついた。
ここは力勝負でねじ伏せてやるぜ、絶対に。
セットポジションから軸足に力を溜めつつ、素早く踏み出して……スリークォーターの角度で左腕を振り下ろす!
「うりゃあああっ!!」
「外角低め、じゃけえええっ!!」
ズバンッ!!
「ストライク!」
「また速くなったぞあのピッチャー! 167キロだ!」
「でもナギータのフルスイング、見てて気持ちいい〜!」
少しずつ肩が温まってきて球速が出だした。それにしても振り遅れとはいえ、とんでもねえスイング……こっちまで風が飛んできそうだ。
次は……そっちはちょっと。それで行こう。
それじゃ2球目も外角低めで振らせてやる!
「うりゃあああっ!!」
「じゃけえええっ!!」
バコンッ!!
「ファウル! カウント0−2!」
当ててきやがったか……一見すると力任せのフルスイングだけど、バットコントロールもなかなか上手いと見た。
だけど次で、ノビのある外角高めで終わらせる!
つもりだったが。
バコンッ!!
「ファウル!」
クソッ。球速は上がってきてるのに、三振を取りに行ったボールまで当てられるなんて。
しかも段々とタイミングが合ってきてる。スイングしながら調整してくるタイプか。
そもそも外角ばかりじゃそうなるよな。
ならば……次はそっちで行こう。万が一の場合でもダメージが少ないように。
次はいよいよ大台に乗りそうだし、これで十分に仕留められるはず。
というわけで最後の決め球は、内角低めだ!
「うりゃあああっ!!」
「今までより更に速いが、コースは甘い……じゃけえええっ!!」
バッコーーンッ!!
これまで当てられたか。170キロは出てたと思うけど……デッドボールをやっちまったせいか、内角はやっぱり投げにくい。コースが甘くなった。
だけどヤツは明らかに振り遅れだ。
あんなに後ろへ重心を残したまま仰け反るように振り切ったって、まともな打球は飛んで行かねーよ。
打球はフラフラと左中間へ。センターの阿戸さんの守備範囲だ。
阿戸さんの足が止まった……いや、目測を誤ったのかまた後ろに駆け出す。
そのうちフェンスが近づいてきて……まさか!
ガコッッ!! とフェンスに打球がぶつかった音がこっちまで聞こえてきた。
ヤバい。これじゃ2塁ランナーが。
「うひょ〜! 早速1点取ったぞいや!」
金盛がガッツポーズしながら余裕でホームイン。そしてナギータは2塁……いや、3塁へ行こうとしてる!
「セーフ!」
「出た〜! ナギータの『仰け反り広角打法』! もうちょっとでスタンド言ってたのにな〜!」
「それにしてもあのガタイで足も速い! 3塁打にしちまった!」
なんだよその打法……コースが甘かったとはいえ、あんな体勢でフェンスまで持ってくなんて。
とんでもねえ規格外のパワーだ。でも次はそうはいかねえから……と、点を取られたのにワクワクしている自分にちょっと引いてる。
それはともかく、次のバッターに集中しないと。これ以上の失点は防がねば。
次はいよいよ1年生コンビの1人、喜与間の登場だ。ナギータを差し置いての4番……どんなヤツなのか楽しみで仕方がない。
<あとがき>
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次回更新は9月11日(金)の予定です




