第76話 かつての名門私学
「え〜とね、まずは相手校の概要について。『真自由学園』って校名、聞いたことはあるって人もそこそこいると思うんだけど……」
決勝戦前日の晩飯後のミーティングで古池監督が喋り始めた。
それはいいんだが、概要とかそんなのどうでもいいよ。どんな相手がいるのか、そいつは強えのか……オレはそれが聞きたいんだ。
ミーティングでも朝礼でも、先生とか監督ってのはどうしてこう、どっちでもいいことから回りくどく説明するのか。
なんか既に眠気が……おっと、さすがに居眠りすると怒られる。なんとか眼を開けておかないと。
「昭和の時代においては全国でも屈指の名門強豪私学として有名だった。全国から優れた選手をスカウトして、当然だけど甲子園の常連で何度も優勝してるし、春夏連覇も1回達成してる」
へえー。そりゃすごいね。
「だけど平成に入ってから部内の暴力事件が相次いで明るみとなって、評判もチーム力も地に落ちてしまった。最後は、当時の学園理事会からも見放され、廃部処分となって高野連からも脱退……その歴史に幕を閉じることになったんだ」
ふーん。それは大変だ。
「最近になって野球部OBが中心となって復活の動きがあって、現在の理事会に認められたのが3年前。それから高野連再加盟、甲子園出場、そして今年の春のセンバツではベスト8と急激に力を伸ばしている」
まあ、ちょっとはやるようだけど、それって浪速筋高校より下ってことじゃないのか? だとしたらつまんないな。
ふあ〜。危ねえ……監督にあくびを見られてなければいいけど。
ダメだ、もうまぶたが重くて……いや意地でも目を閉じないぞ……!
◇
「……オージロウ。おいってば!」
「うーん。しょーたじゃねえか、おはよう」
「やっぱ目を開いたまま居眠りしてたか」
「へっ? えーと、今は」
「ミーティングが終わったとこだよ。で、どこまで覚えてんだ?」
「えーと。最初の概要は……一応」
「なんか怪しいな。まあいい、他には?」
「確か……1年生が2人、レギュラーで中心選手だって。エースナンバーを着けてるのと、4番を任されてるバッターと」
「名前は?」
「ピッチャーの方は、鍬形だったかな? 4番の方は、喜与間」
「それは合ってる。他の選手のことは」
「聞いたはずだけど……すぐには思い出せない」
「はあ……まあいいよ。おれの方でちゃんと聞いてるから。明日はちゃんと体調を整えといてくれよな!」
「ぐはあっ!!」
ここでしょーたからバシィーン!と背中を叩かれて、ようやく目が覚めた。
それで色々と聞いたことを思い出してきたが、やっぱりまだ頭の中で整理できてない。
確か剛速球のリリーフエースもいるとか言ってたような……まあ、明日までに思い出せばいいや。
それから部屋に戻って、明日の準備をやっておく。というのも、決勝戦は10時開始なので、8時頃には球場入りしておく必要がある。
朝は早めに起きてホテルを出発するから余裕がないのだ。同部屋の大岡ともあまり会話する暇もなくベッドに潜り込んで就寝……。
でもなんとなく眠れない。やはり決戦を前にして気持ちが高ぶっているのだろうか。
「なあ大岡。もう寝たか?」
「……まだ起きてるけど、寝ようとしてるから邪魔すんな」
「お前でもやっぱ気持ちが高ぶってんだな」
「俺のことをなんだと思ってやがる。オージロウこそ図太そうなくせに」
「えー。大岡にはそう思われてんのか。こう見えても繊細なのにさ」
「どこが……とにかくフザケてないでおとなしく寝ろ……」
同部屋で20日間過ごしたにも関わらず、気難し屋の大岡とはまだ壁があるというか、距離を詰め切れていない。
だけどそういうのは試合が終わってから考えよう。今は試合のことだけを……泣いても笑っても、この5校連合チームで試合をするのはこれが最後なのだ。
もちろん秋の新チーム結成でも連合チームを組むことは可能だ。だけど3年生の阿戸さんたちは引退してしまう。
それに甲子園で勝ち進んだことで、もしかしたら単独チームが組めるほど入部希望者が殺到する学校も出てくるかもしれない。
そうなったら多岐川高校との連合チーム解散と同じことをまた味わうことになるかも……。
そんなことを考えながら悩んでいると、いつの間にか意識が薄れていって……。
◇
なんだかんだと言いつつも翌朝は目覚めも良く、朝早くからバスに乗り込んで球場入り。
日差しは既に暑いけど、さすがにまだ地面までは熱されていない。そんな爽やかな空気感を味わいつつ、試合前の調整を行うべく室内練習場へと入る……ところで妙な音が聞こえる。
「……ふごおおお〜! うーん、ムニャムニャ」
なんと高イビキ……しかもその主は真自由学園のユニフォームを着てうつ伏せで人工芝に寝っ転がっている。
「なあ、どうするこれ?」
「お前が声かけろよ」
オレたちは互いにその役回りを押し付け合う。だってそいつの風貌が……。
そしてジャンケンで負けたオレがそうっと近づいて声をかけようとした瞬間……。
「ぐがあああ〜! あー、なんかうるさいわ……って自分のイビキか。ん? お前、どこのボウズや?」
いきなり目が覚めてムクッと起きたソイツは、なんとパンチパーマ、額から眉間に残る一本筋の傷痕……そして関西弁のダミ声!
ひええっ! どう見てもヤバそうなヤツじゃん!
あまりの風貌で自分とタメか年上か年下かもわからん。それとも選手じゃなくてコーチとかだろうか?
なんであれ、ここは丁寧に話したほうがよさそうだ。
「あの。お、オレは、5校連合チームのオージロウです……」
「えっ? なんで対戦相手がこっちの練習場に」
「あの。ここはウチの側の練習場なんですけど」
「……おう、そうやった。向こうの芝生の寝心地が悪かったから、こっちで寝転ばせてもらおうと思って……」
「というわけで、オレたち試合前の調整したいんですけど」
「すまんかったなボウズ……真自由学園の3年生、柄冬や。試合ではお互い頑張ろう。なあ?」
「あはは、そう、ですね。それじゃグラウンドで」
ふう。やっと向こうへ行ったか。
それにしても1学年違うだけなのにボウズって呼ぶのはちょっと……だけどあまりの風貌と迫力で言い返せなかった。
「今のが、昨日説明した真自由学園のリリーフエースだよ。バッティングも強打者……それにしても実際に会うと、高校生とは思えない落ち着きっていうか、凄かったね」
うーん。古池監督はオブラートに包んでるけど、あれはパ◯プロで言うところの『威圧感』ってやつだ。
リリーフエースらしい能力ともいえる……ふふふ、これは断然、試合が楽しくなってきたぜ……!
<あとがき>
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次回更新は9月4日(金)の予定です




