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5校連合チームで挑む甲子園 〜160cm台の怪物二刀流、全国を震わせる〜  作者: ウエス 端
準決勝

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第73話 コンビネーション

「やってもうた! コントロールミスや!」


 浪速筋(なにわすじ)高校との準決勝も終盤の8回裏でウチの攻撃中。


 先頭バッターの阿戸さんへの3球目で、マウンドの串島(くしじま)が投げた直後に叫んだのだ。


 阿戸さんはすかさず失投を狙い打つ!


「スライダーが落ちきらず甘いトコに……もらったぜぇ〜! オラアッ!!」


 バシィーンッ!!


 真芯で捉えた気持ちいいくらいの打球音を残して、打球は左中間へと放物線を描いて飛んで行く。


 これはもういった。オレたちはフェンスに目を向ける。


 そしてセンターがフェンスの数メートル手前で止まって見送る……のかと思いきや。


 ガコーンッ! と打球はフェンス直撃……。


「惜しい! もう少しで入ってたのに!」

「でも2塁打は間違いなくいける! もしかしたら3塁打も」


 気楽にはしゃいでたオレたちだったが、跳ね返った打球の行方が雰囲気を一変させた。


「アヒャヒャ! この低井田(ひくいだ)ちゃんの守備範囲に打ったのが運の尽きなんやで〜!」


 センター低井田があらかじめ顔の前に構えたグラブに、跳ね返ってワンバウンドしたボールが寸分違わず吸い込まれて。


 パシッとキャッチした瞬間に身体をセカンドベースへクルッと向け、即座に送球したのだ。


「阿戸さーん! ヤバいから速く走って!」

「このままじゃ2塁打もムリ!」


 余裕の走塁していた阿戸さんは、オレたちの声で加速し直したが果たして……。


「アウト!」


「あー! なんてこった!」

「相手のセンター悪運強すぎだろ! クッションボールが自分に向かって勢い良く跳ね返ってくるなんて!」


 あまりの結果にベンチ内ではブーブーと文句の大合唱だが、古池監督がおもむろにそれを否定する。


「あれこそ、低井田が『魔術師』って呼ばれてる所以だよ。運じゃなくて全て計算ずくだと思う」


「どういうことです?」


「彼は打球が飛んできた瞬間に落下地点はもちろん、クッションボールの跳ね返り方まで頭の中にイメージが湧くらしい。という噂だけどね」


「なんだよそりゃ。超能力ですか?」


「さすがにそれはないと思うけど……まあ、独特な野球センスを持ってるんだろうね」


 へえ〜。世の中には色んな奴がいるもんだ。


 思い返せば初回のホームランキャッチも、オレの速い打球が到達する前からフェンスによじ登って待ち構えていた。


 つまり低井田の守備範囲への中途半端な打球は簡単にヤツの餌食となっちまう。


 まあオレが完全なオーバーフェンスを打てばいいだけなんだけど。


「カズっち! ドンマイやで〜!」

「アハハ。まあ結果オーライやでノブやん!」


 串島とキャッチャーの阿波(あわ)が言葉を交わしてるが、頭崎(かしらざき)が投げてた時と違ってなんか和気あいあいとしてる。


「監督、もしかしてあの2人って」

「うん。シニア時代からバッテリー組んでたはずだよ」

「じゃあ串島は元々ピッチャーだったんだ」

「そうだね。だから頭崎より球速が遅くてもナメてかかれない」


 ふーん。それなら対戦がますます楽しみだ。


 さて次はしょーたの打席。その間、サークルで串島のスライダーをじっくり見させてもらおう。


「しょーた! 外へ逃げるボールに泳がされんなよ!」

「言われなくてもわかってらあ!」


 威勢がいいのは構わないが、と半信半疑だったけど……この打席のしょーたは一味違った。


「外角いっぱいに決まりそう……させるかあっ!」


 バコンッ!!


「ファウル! カウント2−2!」


 これで8球目。追い込まれてから随分と粘っている。今のもスイーパー並みに曲がるスライダーに食らいついてファウルにしたのだ。


 流石は我らが連合チームのキャプテンを任された男。ここで1点でも多く追加点を取って勝利を確実にしようと意気込んでいるに違いない。


 と思ったのだが、どうやら買いかぶっていたようだ……。


「なあ、しょーたくんやったっけ? 思ったよりやるやん。もっとザコいかとナメとったわ」


「おれは負けるわけにはいかないんだ! 雛子さんにちょっかい出そうとするアンタにはなあ!」


「へえ。でもどうせ一方的に憧れてるだけなんやろ、キミは。俺はなあ、彼女と大学でも仕事でもプライベートでも共に歩んでいきたいって、将来の人生設計まで考えてるんやで!」


「なっ……それなら尚更ここでアンタを倒しておく必要がある!」


「おもろいやんけ。やれるもんならやってみいや! せいやああっ!」


 何やら勝手に盛り上がってるが、オレはどっちも姉ちゃんの相手と認める気ねーから。


 それはともかく9球目は真ん中寄りの低め……でもあれは!


「でいやあ……んんっ!」


 ピタッ!


「ボール! カウント3−2!」


 おおっ。落ちるスライダーを見極めてハーフスイングで止まった!


 いいぞしょーた。動機はともかくこのまま粘ればいずれコントロールミスで……。


 だけど串島は相変わらず不敵な笑みを浮かべながら10球目を投げ始める。


「さすがにこれ以上は面倒やわ。オージロウくんの前で投げるのは避けたかったけど……今度こそ終いや! せいやああっ!」


 なんだよ、思わせぶりしといて甘いボール……しょーたが失投を逃さず捉える!


「これで雛子さんはおれの……でやああっ!」


 バコッ!!


 明らかに芯を外した鈍い音……アイツ、カットボールまで投げられるのか。


「チクショ〜、ショートゴロ……無念だ〜! でもおれは諦めない!」

「なんやしょーたくん、諦めが悪い男はアカンで!」


 諦めが悪いのはお前の方だろ串島!


 と心の中でツッコミ入れつつ左打席に向かう。既にハリーや頭崎と散々言い合いしたから、これ以上は面倒なんだよ。


 串島はそれを察したのか、打席で準備をするオレに向かって一方的に聞こえよがしに呟いた。


「それじゃこっからはギア上げていこか。ここでオージロウくんを抑えて、その勢いで9回表に逆転や!」


 うーん。串島の場合、本当なのかハッタリなのか判断しづらいんだよな。


 これも相手を惑わす策の一つ、気にしない。オレは来たボールを打ち返してスタンドに放り込むのみ。


 串島はランナー無しでもセットポジションからビシッと前蹴りの如く左足を上げ、そこから素早く踏み出して。


 オーバースローからボールの側面を切るが如く、空手チョップで素早く右腕を振り下ろす!


「せいやああっ!!」


 ヤツの配球はここまで全てスライダー系……ストレートすら投げてない。


 そして内角高め、胸元へ……ということは!


「うおっ! ボールが軌道を変えて向かってくる!」


 ズバンッ!!


「ボール!」


「よっしゃあ! 左バッター相手に初手から『上段回し蹴り』でカマしたった!」

「強気で内角を攻めるクシジマくん! あーん、痺れるぅ〜!!」


 なるほど。これも空手の蹴り技になぞらえてるんだ。それにしても終盤まで変わらぬ女子たちの声援は率直に羨ましい。


 だけど初手がこれだとあとはどう組み立てるつもりなのか。


 2球目は外角に大きく外れる……いや!


「うりゃあああっ!」


 バシィーンッ!!


「ファウル!」


「うわああ! 遠い間合いからの『中段回し蹴り』が打たれた!」


 つまり外からストライクゾーンへと曲がってくるバックドアね。


 引きつけてレフト方向へ打つから、あの程度じゃオレの体勢は崩せない。


 3球目は同じく外へ大きくハズして、今度は落ちるスライダー。要するにバックドアと誤認させてバットを振らせるのが狙い……もちろん余裕で見送った。


「オージロウくん、ほんまよう見えてんねんな。初見ピッチャーのボール、こんなズバズバ見切れんけどな、普通」


「……集中してよく見てるだけっすよ」


 阿波が話しかけてきたが揺さぶりだろうか。これも気にしすぎると負け。一言返して串島を見ると、もう投げる寸前だった。


「これで勝負に行くで! せいやああっ!!」


 速い。でも勝負に出たって割には内角寄りでコースが甘いな。低いけど。


 これは……もう分かってるけどあえて乗ってやるよ!


「うりゃあああっ!!」


 バッコーーン!!


 イテテテ! やはりカットボール。少し芯をハズしたか、手がしびれる!


 だけどそれなりには捉えたと思うんだよな。


「ヤバい! ライトポール際に飛んでってる!」

「いけー! そのままスタンドに入っちまえ!」


 力ずくで外野へ持っていった打球は、ライトポールを巻くようにスタンドへ消えていって……。


「ファウル! カウント2−2!」


「うわあ〜、ちょっとヤバかったわ、アハハ」

「オージロウくん、詰まった打球をあそこまで飛ばすとか無茶苦茶やで!」


 串島と阿波は、ホッとしたって感じで声を上ずらせてブツブツ言ってる。


 うーん、なんか違和感が。特に串島……決め球を打たれた割には軽い感じなのがなんとも。


 しかしじっくり考える暇もなく串島は次のボールを投げようとしている。


 そしてヤツの右手の握りが一瞬見えた……!


「ほないくで! 今度こそトドメや!」


「うわっ! 緩い!」


 右手から弾き出されたボールは、カーブみたいな緩い球速でフワッとした軌道のあとに。


 加速するように横滑りしながら落ちていく……スラーブだな、まだこんなの隠してやがった!


 カットボールのタイミングで始動したからマズい。しかも内角低めいっぱいに決まりそうだ。


 だけど握りが今までと少し違うのを見て、体重移動をギリギリまで遅らせた。


 そして後ろに倒れ込むつもりで軸足に重心を残しつつ、下半身の回転で膝元に向かってくるボールを捉えに行く!


「うりゃあああっ!!」


 バシィーンッ!!


「どわあっ!」


 勢いで後ろに倒れちまった。でもバッチリ捉えたはず。あとは……。


「ファウル!」


「また惜しい! 飛距離は十分だったのに!」

「串島〜! さっきからヒヤヒヤさせられっぱなしで暑さ吹き飛んだで!」


 スタンドの盛り上がりとは裏腹に、自分でも驚くくらい冷静に立ち上がる。次はもう確実に捉えられる自信があるから、かな?


 一方、串島は……。


「あれまで初見で打ち返すんかいな。怪物っちゅうかバケモンやで、キミは! アハハ!」


 いつもの軽口を装ってるが、とっておきを打たれた割には慌ててる様子がない。ハッタリのポーカーフェイスなのか、それともまだ奥の手があるのか。


 次のボールはスラーブをあからさまに低く投げてフルカウント。


 つまり次が最後のボール。


 串島はチラリとオレの顔に視線を向けて、すぐにキャッチャーへと向け直した。


 これは……それが最も自信があるんだろう。


 投球モーションに入った串島の表情はこれまでになく真剣だ。そしてこれまでよりも右腕に強い集中力が感じられる。


 ここでオレの脳裏には、格闘技マニアのクラスメートから日頃聞かされるウンチクが何故か思い浮かんだ。


「空手の蹴りはそれ単体の技のキレだけじゃなくて、フェイントや組み合わせが実戦では重要なんだよね〜。例えば……」


 なんとなくどう打つべきかイメージできた。さあ来い!


「今度こそホンマにトドメやで! せいやああっ!!!」


 内角高め、胸元に向かって……と見せかけて!


「うりゃあああっ!!!」


 バッッシィーーンッ!!!


 オレが最後に捉えたボールは、ヤツが得意な『上段回し蹴り』と途中まで見せかけた『裏回し蹴り』だった。


 普通の回し蹴りとは逆方向から弧を描くように踵や足の裏で顔面を捉える蹴り技。


 そして上段回し蹴りとのコンビネーションで身体を一瞬後ろに向けてガードの逆側を突くようにして。


 胸元に向かって曲がってくるスライダーと見せかけて、同じ投球モーションからやや浮き上がって逃げていく『シュート』を投げてきたのだ!


 虚をついて、フロントドアで見逃し三振を狙ってきた……だけど悪いな、見抜いてしまった。


 そして今度こそ、放たれた打球は大きな放物線描いて。


 低井田も最初から諦めてしまうほどの飛距離で、ライトスタンド上段へと落ちていったのだった。



<あとがき>

いつも読んでいただいてありがとうございます

次回更新は8月24日(月)の予定です

よろしくお願いします

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