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5校連合チームで挑む甲子園 〜160cm台の怪物二刀流、全国を震わせる〜  作者: ウエス 端
準決勝

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第68話 最高のボール

「こんだけ気持ちが高ぶるのはいつ以来やろ……いや、もしかしたら人生で初めてかもしれん。ワシはこの瞬間を待ち焦がれとったんかもなぁ!」


 オレが左打席に入って準備を始めたところで、不意にマウンドの頭崎(かしらざき)が大声で喋りかけてきたんだが。


 独り言かな、どっちだろ……何か返答すべきか迷っていたら結局は名指しされた。


「なあ、オージロウ! お前もそうなんやろ?」


「ええ、まあ、その」


「なんやねん、つれないヤツやのう! お互いにこれ以上ないレベルで気兼ねなく対戦できる……ワクワクしてたまらんわ!」


 気兼ねなく、か。オレはまあ元からそんなのは無いんだけど。


 頭崎はキャッチャーの阿波(あわ)とようやく真に心が通じ合って、ボールが後逸する不安が無く自分の剛球を全力で投げ込むことに集中できる。そういうことなんだろう。


 それとヤツの顔つき。少し前までは常に苛ついていた……関西人に多いという『いらち』なのかと思ってたがそうではなかった。


 不安がなくなったことで、勝負にこだわるヤンチャな野球小僧の表情となってオレの前に立っているのだ。


 もちろんそれはオレにとっても心が高ぶる要素でもある。


 オレは姉ちゃんと違って、こういう時に感情を気の利いた言葉へ変換するのが苦手なんだけど……グリップを握って構えてから一言だけ返す。


「さあ来い。アンタの最高のボールをバックスクリーンへ放り込んでやるからさあ!」


「ぬかしたなクソガキ……上等や……!!」


 お互いに思いの丈を語ったところで、頭崎はプレートを踏んでから左足を後ろに引き、両腕を頭上に振りかぶる。


 ……ん? なんかおかしくないか?


「頭崎のヤツ、ワインドアップで投げてるやん! ランナーおるってのに!」

「いや、既にツーアウトやからエエんちゃう?」


 ランナーの存在を忘れたのか、頭崎は力強く、しかし隙だらけで投球モーションを続ける。


 身体を捻りつつ左足を高く引き上げて軸足に力を溜め……そこから踏み出して体重を一気に前に移動させる。


「ワシの渾身のストレート、打てるもんなら打ってみさらせ! わっしゃいいいっ!!」


 速え!! 高め……外角ギリギリ入るか!?


 ズガンッ!!


「……ストライク!」


「またきたああーー!! 172キロで最速更新や!」

「コイツどこまで記録伸ばしてくるんだ?」


 とうとう先に行かれたか。キャッチャーの阿波はもうミットで捕りきれず、ほぼプロテクターで受け止めてる有様だが、どんだけ頑丈なんだよ。


 それと今回の球審は大変だよな〜。頭崎の170キロ台荒れ球ムービングボールを極力正確に判定しなければいけないのだから。


 さっきのもボール気味からカットボールみたいな変化を見せてストライクゾーンに入った……かな? 微妙だけど。


 まあ、少なくともこの試合ではあそこはストライクに取られてしまうということで理解した。


 そういやランナーの原塚さんは……もう、呆気にとられてその場に留まってる。まさかのワインドアップだし、咄嗟に判断できなくても責める気にはなれないよ。


 古池監督はなんか指示出すかな。というかオレの方を見てるけど……ひょっとして気を使ってんのかな?


 バッターによっては自分の打席で盗塁とか仕掛けられると気が散るとかで嫌がるらしいけど、オレは気にしない。


 というか、その余裕もない。頭崎が投げた瞬間に、狙い球か否か、打ちにいくかを瞬時に判断しなきゃ間に合わん。その領域なのだ。


 なので監督にはOKとわかるサインを返した。あとは好きにやってくれたまえ。どうせツーアウトだし。


「ゆっきー! その調子でどんどん来てや〜!」


 阿波が軽快にピッチャーへ返球する。頭崎は不敵に笑ってそれをパシッとわざと音を立てて受け取ることで返事をした。


 これは。また来るかも。


 そんな予感がしつつも打席で構えると、豪快なワインドアップからテンポよく2球目が投じられる!


「わっしゃいいいっ!!」


「内角低め……こっちに! うわあっ!!」


 ズガンッ!!


「……ボール!」


「おい! ウチの2刀流にそんな凶器当てんじゃねーぞ!」

「あんなん大したことないやん! ビビリなだけや!」


 スタンドからはあれこれ聞こえてくるけど、思わず腰を引いちゃったよ……。


 今度は横滑りスライダーかと思うくらいにオレの太もも目掛けて食い込んできた……ように見えた。


 実際に阿波が身体をこっちへ寄せて捕った場所的にはそうでもないけど。そう思わせるくらいボールに威力とキレがあったのだ。


 ちなみに原塚さんは悠々と2塁へ盗塁。というか阿波は最初から諦めて投げようともしていない。


 そして3球目。今度も2塁ランナーに目もくれず、頭崎はスリークォーターの角度で右腕を力任せに振り抜く!


「これで一気に追い込んだるっ! わっしゃいいいっ!!」


 内角、今度は高め……ボール気味か、いや違うみたいだ!


「うりゃあああっ!!」


 ズガンッ!!


「……ストライク! カウント1−2!」


 ふうっ。今度はホップしながらシュート方向へブレた。どう変化するか、全く予想できないよ。


 なんとかバットには当てたけどファウルチップが精一杯。阿波がプロテクターで受け止めてからキャッチされた。


 まあ、原塚さんが3塁へ無事に盗塁できたから良しとしよう。と思ったがスタンドでそれに文句つけてる人がいる。


「あれファウルちゃうんけ? なんでランナー戻さんのや?」

「おっさん、それ何年も前のルール。今は地面に落とす前にキャッチしたらファウルチップ扱いやで!」


 へえ、そうだったんだ。まあなんにしても咄嗟にわざと地面に落とすって難しいと思う。


 それはともかくとして。今のは狙い球ではなかったけど、オレの得意なコースではある。


 それを相手バッテリーがどう捉えたか。


 そして4球目は……またもや内角高めだが、ややブレーキがかかって落ちながら食い込んできた!


「うりゃあああっ!!」


 バシィーンッ!!


「ヤバいわ! おもくそ引っ張られた!」

「いけー! ライトポール際に放り込め〜!」


 うーん。今回も咄嗟に振り抜いたけど……。


「ファウル!」


 やっぱそうなったか。始動したタイミングが早かった。


 まあ、オレの得意なコースに続けざまに投げればこうなる。このコースで三振というのにこだわったのはおそらく頭崎なんだろうけどさ。


 荒れ球ムービングボール故にいつも同じようにブレるとは限らない。今回はコースを予測してた分、やや甘く入ったところを捉えることはできた。


 これでこのコースには投げてこないだろう。得意ではあるが変化の予測がつかないコースで勝負を続けたくないから、もちろんオレにとって都合が良い。


 で、粘られたり捉えられそうになると、ピッチャーは最も信頼できるボールに頼りたくなるものだ。


「オージロウ……やるやんけ! 普段やったらさっきので頭にくるところやけど……お前に対してはワクワクしっぱなしや。せやから、ワシの最高のボールを見せたる……これで勝負や!!」


 来たか。というかこれを待っていた。


 5球目。頭崎は軸足に溜めを作って、全身の筋肉を躍動させながら力強く踏み込んで、右腕を振り抜く!


「これがお前に捉えられるかのう! わっしゃいいいっ!!!」


 真ん中低めというか地面スレスレのボール球。そして手前から急激にホップして伸びてくる!


 ズガンッ!!


「……ボール! カウント2−2!」


「またきたああ!! 173キロ更新!」

「惜しすぎる! オージロウは手が出んかったのに!!」


 そうだね。速すぎてスイングもできなかった。


 という顔つきになってるかな。


 そしてここまでは想定通り。


 低めからノビ上がるストレートは頭崎の決め球ではあるが、変化量も制球もアバウト……オレを相手にして甘く入れば抑えきれる保証はない。


 それを4球目の大ファールで見せつけた以上は、さっきのは見せ球でしかない。振ってくれれば儲けもの。


 だけど……ヤツにも一つだけ自分でコントロールできるボールがある。


 しょーたはさっきの打席でバントの構えをしながら粘った。それはオレに球筋を少しでも多く見せるため。


 それがわかってるから、さっさと仕留めたかった頭崎は2度同じボールでしょーたから空振りを奪い、それでスリーバントを失敗させた。


 その、ここぞというトコだけで投げるボールをこれから投げてくる。確実に。


 頭崎は豪快に両腕を上げるワインドアップから、身体を捻り左足を高く上げて。


 スリークォーターから、いつもより微妙に角度を下げて。


 雄叫びを上げながら全力で右腕を振り抜く!


「今度こそ往生せいやオージロウ……オラアッ! わっしゃいいいっ!!!」


 一見するとこれまでと同じストレートだが。


 真ん中からやや外の、ちょっと甘い低めで。


 ツーシームの縫い目で向かってくる!


「うりゃあああっっ!!!」


 バッッシィーーンッ!!


 超高速シンカーをイメージ通りの軌道で迷いなくスイングした。


 これだけは2度投げて軌道も変化量も同じだった。つまりイメージ通りに狙える唯一のボール。


 球速は……175キロまでいったのか。スゲーな。もう、インパクトの瞬間は見えてないくらいに振り抜いたから、それを打った実感はないけど。


 踏み込んだ右足は……バッターボックスから完全にははみ出していない。セーフ。


 それを確かめてから安心して歩き出す……のは、『高校球児のくせに確信歩きとは!』とか批判されるかもしれんから一応走り出す。


 打球は放物線を描いてバックスクリーンへ。


「あぎゃああ! 最後まで諦らめんと捕りに行くやで〜!」


 『魔術師』低井田(ひくいだ)がフェンスによじ登ってホームランキャッチを試みているが、悪いけど無駄だ。


 その遥か上空を通過した打球は、バックスクリーンのすぐ手前でポーンと跳ねてるのが見えた。



<あとがき>

いつも読んでいただいてありがとうございます

お知らせですが、次週のみ週3回(月、水、金)更新といたしますので、次回更新は8月10日(月)の予定となります

よろしくお願いします

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