第67話 チームプレー
「これまで何度も言うたけどやぁ。いつになったらワシのボールまともに捕れるようになるんや? もう3年の夏の準決勝やでなあ、ノブやん! のう!!」
「……ほんまにスマン、ゆっきー」
6回裏のウチの攻撃、先頭バッターの中地さんが振り逃げで出塁したのだが。
浪速筋高校はここでこの試合初めての伝令をマウンドに送ってきた。
で、奴らの会話を聞くつもりなどなかったが……頭崎が怒り心頭でキャッチャーの阿波に向かって喚いているせいか丸聞こえだ。
オレも一応はキャッチャーやってるからわかるけど、頭崎の171キロ荒れ球ムービングボールをまともに捕れるキャッチャーが高校球児で何人いるだろう……。
それをこれまで文字通り身体を張って受け止めてきた阿波にあの態度はちょっと酷いと思う。
これでチームが空中分解とかなったら見もの……もとい、見ちゃいられない。
そう考えたのはオレだけではなかった。どうなることかと球場内が見守る中、意外な人物が切り込んできた。
「頭崎も阿波も、どっちも喝じゃ! 今はとにかくチームが勝つこと、チームプレーが先決じゃろがい!!」
レフトを守るハリーが内野まで前に出てきて叫び、両者へとまさに喝を入れたのだ。
うーん、正論だ。でも暴れん坊のハリーがそう言ってもなー。
しかしそれを受けて串島が二人を上手くなだめようと、身ぶり手ぶりしながら話しているのが見えた。
◇
「なあ、ちょっと俺の話聞いてーや。ゆっきーは中学時代、シニアで自分の剛球を捕れるキャッチャーがおらんで困っとったやん?」
「……」
「せやけどこの高校に入って、ノブやんがとにかく身体で受け止めてくれるって、キャッチャー見つかったってメッチャ喜んでたやんか。俺は昨日のことのように覚えてるで」
「……まあ、そんな事もあったのう」
「それから3年間相棒としてやってきて、どっちにしてもあと2試合しかないんやで? ここでモメて終わるの勿体ないと思わへん? ノブやんも」
「もちろんや。俺、このあとは絶対後ろにも横にも逸らさんから。全部身体のどこかで受け止める」
「わかった、わかったから! ワシもちょっと言い過ぎた。このあとにオージロウが控えとるから、気持ちが高ぶっとるんや」
「これで一件落着やな! んじゃもう戻るで!」
◇
全部は聞こえなかったが、さすが串島。話術でこの場をきれいに収めちまった。
相手バッテリーがギクシャクすれば甘い球がくる確率が上がるかな、とちょっと期待したけど……まあいいや。やっぱ全力の頭崎からスタンドに放り込まねーと面白くない。
で、ウチのベンチも一つ動いた。1塁ランナーを中地さんから原塚さんへと交代。
古池監督はここを勝負どころと捉えているようだ。
原塚さんは元体操選手で得意種目は跳馬だった……つまりダッシュ力が半端ない。
そしてもう一つ代走として優れているのが帰塁のうまさ。
「コイツ! デカいリードでうっとうしいのう!」
「おっと、これくらいは十分帰れる間合いだ」
「セーフ!」
「スゲー! 前後に180度開脚しながら滑りこんだ!」
「アイツ、ナニモンや! 変態走塁やんけ!」
ふふふ。スタンドの驚きが自分のことのように面白い。
この調子で隙あらば盗塁を決めて、そうすればゲッツーを避けられる。
つまりオレまで確実に打順が回ってくるのだ。
さらにあわよくばもっとランナーが溜まって……などとオレたちは楽観していたのだが。
◇
「オラアッ!!」
ドスッ!!
「……ストライク! カウント0−2!」
右打席には阿戸さん。そしてスイングは見事に振り遅れて空を切っている。
そしてキャッチャーの阿波は言った通りにここまでの2球をいずれも身体のプロテクターで受け止めた。
正直言えば何かが起こる雰囲気も感じられん。せめてランナーが盗塁を、と思った瞬間だった。
「ファーストや!」
「これは、まずいかもしれん!」
阿波が座ったままでミサイルみたいな牽制球を……原塚さんは戻れるか?
「セーフ!」
ふうっ、間一髪じゃん。これじゃ盗塁も難しい。
それじゃやっぱり阿戸さんに期待を……そして頭崎の3球目が来る。
「ランナーとかワシにはもう関係ない。ノブやんを目掛けて全力で投げつけるだけやでなあ! わっしゃいいいっ!!」
「内角低め来たぜぇ! オラアッッ!!」
ズバンッ!!
「……ストライク! バッターアウト!」
「おっしゃああ! いつも通りの奪三振ショー再開や!」
「あんなに振り遅れたら、そりゃ当たんないよな〜」
阿戸さんの得意なコースだったのだが、単なる171キロじゃなくて低めにググっと加速してくるようなノビがあった。
そして阿波がプロテクターで受け止めて即座にミットで回収。無死一塁でどの道振り逃げはできないけど、ランナーへの隙も見せなかった。
「全然当たらんとはよぉ〜、自分に腹が立つぜぇ〜! あ゙あ゙〜!」
悔しがりつつトボトボと戻ってくる阿戸さん。
オレはあえてこう声をかけた。
「ナイスバッティングでした!」
「なんだ〜? 三振でナイスとかイヤミ言ってんじゃねえぞオージロウ!!」
口ではこう言ってるが、顔は照れ隠ししようとしてるのがモロバレだ。
なぜならゲッツーを避けるために、わざと大振りのアッパースイングをやり続けた結果なのだから。
外野まで運ぶかポップフライか、はたまた三振か。とにかくゴロを打たないのを徹底したバッティングだった。
そうまでしたのは必ずオレに回すためだと、ちゃんとわかってます。
で、次はしょーた。オレもぼちぼちバットとヘルメットを用意してサークルに行こう。
そして最初からバントの構えで右打席に立つしょーた。しかしあの荒れ球を上手く転がすのは難しいと思うのだが。
「今のワシに送りバントなんぞやるだけ無駄やと、わからせてほしいみたいやのう! わっしゃいいいっ!!」
いきなり171キロの内角高め……無理はするなよしょーた!
ズバンッ!!
「……ボール!」
しょーたはギリギリまでバットを引かずに見極めて最後にスッと引っ込めた。
荒れ球が向かってくるように見えて怖さもあると思うが、今回のしょーたは簡単には引かない覚悟みたいなのが見える。
チッと舌打ちする頭崎とは対照的に表情が変わらず高い集中力を保ち続けてるのだ。
そしてオレもじっくり見させてもらうよ。
それからストライクとボールを繰り返してカウント2−2まで粘った。しょーたは相変わらずバントの構え……スリーバントをやるのか、それとも一転して打ちにいくのか。
頭崎もそれが読めないのかちょっと苛つき気味だったけど、最後はそんなの関係ないとばかりにまた鬼の表情で全力の荒れ球を投げつけてきた!
「ザコが小細工でワシを翻弄しようってか。せやけどこれ以上は付き合い切れんわい! わっしゃいいいっ!!」
「真ん中低め……でいやっ!!」
スカッ!!
「ストライク、バッターアウト!」
結局はスリーバントを敢行し、結果としてはバントをするには絶好のコースを空振り。
そしてボールは阿波のプロテクターによって受け止められた。
阿戸さんの時もだけど、阿波はすぐにミットで回収して念のためにしょーたにタッチ。
もうこのバッテリーにはラッキーな得点は望めそうもない。そういう意味での攻略は諦めよう。
だけど、しょーたのおかげでオレは頭崎の荒れ球ムービングボール自体を攻略する手がかりが掴めてきた。
「ナイス空振り、しょーた!」
「なんだよ、オージロウはいつの間にイヤミキャラにキャラ変したんだ?」
「いやいや、みなまで言わなくてもわかってるぜ、我が相棒よ!」
「あっそ。じゃああとは頼んだぜ主砲!」
すれ違いざまにしょーたと軽口を交わしつつ、いよいよ頭崎とのケリをつける打席に入る……!
<あとがき>
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次回更新は8月7日(金)の予定です
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