第64話 回収屋
「みんな、ゴメン。おれ、つい気を抜いちゃってランナーの動きに気づいてなかった。おまけに慌てて送球して暴投……本当にすみませんでした」
6回表、浪速筋高校の攻撃で一死三塁のピンチを迎えている。
ここでウチのベンチはタイムを取り、控えキャッチャーの勝崎さんを伝令として送り込んできた。
とはいえ策を授けるというよりは、間をとってピンチが広がった原因……主にしょーたがやらかしたことについて確認するのが目的なんだけど。
まあ、当の本人の弁明通り油断と焦りが生んだエラーということで……これ以上は何も言いようがねえよな。
「まあ、どうってことねえよ。オレがあとの2人を連続三振に仕留めりゃ済む話だ」
これで少しはしょーたへの風当たりが弱くなればいいけど。
そして集まっている内野陣、中地さんにひょ〜ろくくん、大岡、田白たちは。
「素直に謝ってるんだから別にいいよ」
「そんなに気にしなくていいです〜!」
「……いつもはキッチリやってるしな」
「あとはオージロウが後始末してくれるってさ」
「みんな……ありがとう。おれ、このあとのプレーで返すからさ」
みんなが慰めて、しょーたがそれに応える。うーん、良い光景を見せてもらったぜ。
いや待てよ。結局はオレがどうのこうのとスケープゴートにされて話がまとまっただけじゃねえか。
抗議してやる! と口を開きかけたが勝崎さんに遮られてしまった。
「じゃあオージロウくんがなんとかしてくれるってことで。しょーたくんも、キャプテンなんだからここは気持ちを切り替えてしっかり頼んだよ。それじゃ!」
言いたいことだけ喋ってベンチへと戻ってしまい、みんなもそれぞれのポジションへ……くそっ、うやむやにされてしまった。
まあいいや。チームをまとめるためなら何にでもしてくれりゃいいさ。
実際に結果で示してやるだけだから……!
そしてこれから右打席に迎えるのは、3番バッターの串島。チャンスに強い『クラッチヒッター』で、この場面で最も対戦したくない相手だ。
「きゃああ〜! クシジマくん、あたしに勝ち越し点をプレゼントして〜!」
「いっそのこと彼女にしてくださーい!!」
「頼んだでぇ〜、浪速筋の『回収屋』!」
またまた女子ファンたちの黄色い声援が場内を埋め尽くす。もはやアイドル並みだな。イケメンだし。
あとは『回収屋』って聞こえたけど、なんか上手いこと言うなあ。
『回収屋クシジマくん』ってか……某◯金マンガみたいなタイトルが頭に思い浮かんでしまった。
ランナーをことごとくホームに返す。それを回収になぞらえてるんだろうけど、ネットで見た串島の評判……『稀代のワル』と妙にマッチしてて面白い。
「何をヘラヘラ笑っとんねん。ちょっとキモいでオージロウく〜ん!?」
おっと。そんなに顔に出てたのかオレ。
いやいや、ヤツの『口撃』が始まっただけのことだ。その手には乗らないぞ。
「キモかろうがなんだろうが、アンタには関係ない話じゃん」
「そんなことないで〜。いずれは『義弟』になる男がそんなん嫌やん?」
コイツ……オレが最も頭にくることをズケズケと! っていうか誰がお前の義弟になんぞなるもんか!
しかもしょーたにも聞こえて怪訝な顔してるし……あとで説明が面倒になりそうだ。
いろいろ言いたいことはあるが、この試合に勝つことに専念する。串島が一方的に約束したこととはいえ、勝てば姉ちゃんがヤツと付き合うなどという悪夢は見なくて済む。
まずは初球……珍しくしょーたも一発カマそうって意見だ。
というわけで……いや、一応は3塁ランナーを確認してから。もちろん簡単にスクイズバントはやらせねーけど。
今のところハリーに目立った動きはない。では改めて行くぜ!
「うりゃあああっ!!」
「うわあっ! 危ないやん!」
ズバンッ!!
「……ボール!」
「またあのピッチャー、クシジマくんに近いところに投げてる!」
「クシジマくんを妬んで! 許せない!」
やっぱ女子たちの非難轟々だよ。確かに内角の膝上に投げ込んだけど、当たったりするほど近くには投げてないけどなあ。
串島の大袈裟な演技に騙されてんだよみんな……って言ったところで耳を傾けてくれるとは思えない。
というわけで続けて2球目を投げ込む!
「おっと! 顔はやめてーや!」
ズバンッ!!
「……ストライク! カウント1−1!」
よっしゃ! 内角高め、いいところに170キロストレートが決まった。
それにしても何が顔だよ、串島のヤロー。
全然かけ離れたストライクゾーンに入ってるんだけど? ヤツの大袈裟な演技に球審が惑わされなくてよかった。
女子たちからはやっぱりブーイングの嵐だけど……こうなりゃ悪役を貫き通すだけだ。
さて、次の3球目が一つの勝負どころだ。
ここで追い込むか、ボール先行させるかでその先の状況が随分と変わる。
三振に仕留めてしまえば済む話なのだが……一死三塁なので、とにかくバットに当てて内野に転がせば1点は確実。ハリーの足の速さを考えれば。
そして串島にはそれを可能にするだけの反応速度がある。だから簡単に配球を読まれるわけにはいかない。
しかしここで串島は、オレに向かってビシッと左手人さし指を向けながら言い放った。
「お前の次のボールは……『外角高め』に投げるッ!」
そう、次は外角高めに……ハッ!
なんだよその某奇妙な冒険マンガのキャラみたいな先読み宣言は!
誰がそんなトコに投げるかよ。しょーたも外角低めを要求してるし。
マンガと現実とは違うってことを教えてやるぜ! たっぷりとなあ!
「うりゃあああっ!!」
「来たわ予告通りのボールが! もらったで〜!」
ガコッ!!
「ファウル!」
「惜しかった〜! それにしても今日もいつも通り先読みが冴えとるで!」
「そんな簡単に読まれてどーすんだバッテリー!」
バカな……オレは確かに外角低めに……それがなぜだか高めにいっちまったんだ。
しかも低めに投げるつもりだったから高めなのにノビが物足りない。だからアッサリと……ファウルになって幸運だった。
しょーたはもっと低く! ってジェスチャーしてるし。でも自分でも原因がわからんのだよ。
そんな混乱気味のオレの心を察したかのように、串島がまたもや予告を!
「次にお前は! 『内角高め』を投げるッ!」
だから、狙いがわかってりゃ誰もそんなトコに投げねーっての。
まあ、さっきは投げたけど……たぶん、無意識に誘導されたんだろう。『稀代のワル』なんだからそういう詐欺的なテクニックを使っていても不思議じゃない。
だがこのオレに2度目は通じねえ……残念だったなあ!
それじゃ今度こそしょーたの要求通りに外角低めに投げるッ!
「うりゃあああっ!!」
「やっぱり投げてくれたやん。俺が最初から狙ってたコース……外角低め、しかも中途半端にノビて甘く入ってきたのが!」
なんだと!? しまった、最初から誘導されてたのか……。
そしてヤツの言うとおり、3球目はノビが足りなかったからと指先に力を入れて……そこまで読んでたってのかよ!?
バシィーーンッ!!
ヤバい! 右におっつけながら芯で捉えた打球は、強烈なゴロとなって一二塁間へ……!
このオレが簡単にタイムリーを許すなんて。ガクッと膝に両手をつきかけた、その時だった。
「絶対に捕ってやるです〜! えいっ!!」
セカンドのひょ〜ろくくんが横っ飛びキャッチして……すぐさま一塁へ送球する!
「アウト!」
「あーん! 串島くんがアウトになった〜!」
「でも勝ち越し点は入ったでぇ! さすが回収屋、仕事は確実や!」
スタンドのざわめきの通り、結局勝ち越し点は許してしまった。
でもひょ〜ろくくんのおかげでランナーは残さずに済んで、ツーアウトまで持ち込むことができたのだ。
「ナイスひょ〜ろくくん! ありがとうな、本当に恩に着るよ!」
「だって守りにつく前に約束したです〜! ぼくが全部アウトにしてやるって!」
そういやそうだったな。正直言えばそれほど期待してなかったんだけど……この時ほど彼を頼もしいと思ったことはなかった。
後輩の成長がこれほど嬉しいものだとは……。
とはいえまだ油断はできない。
ランナーはいないとはいえ次に迎えるのは『浪速筋の◯カベン』4番バッターの阿波なのだ。
<あとがき>
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次回更新は7月28日(火)の予定です
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