第61話 試合中盤の展開
「うりゃあああっ!!」
「外角低めは引っ張りどころ! ざっしゃあ!!」
ズバンッ!!
「ストライク! バッターアウト!」
「なんでやねん! 低めはそんなにノビひんはずやのに! あぎゃあ!」
打ち取られても相変わらず騒がしい奴だ。
だけどこれで5回表の浪速筋高校の攻撃は終了っと。さっさとベンチに戻ろう。
で、今さっきのはツーアウトで打席に迎えた9番バッターの低井田を三振に仕留めた場面。
これで前の打席でサード強襲安打を打たれた借りを返せた。
グリップを握る両手の間隔をやや離して打つ低井田は、右手の押し込みが強く引っ張る打球が強烈なのだが。
追い込むまではそれを逆利用して、左腕の角度をやや低くしてクロス気味の内角攻めでファウルを打たせて。
最後は外角低めにキレのある170キロストレートで振り遅れさせてやった。
試合の中盤で疲れが出るし気温も高いから、効率よく打ち取らないとね。下位打線相手に全部170キロ出して、おまけにファウルで粘られたら消耗するだけだ。
◇
「ストライク、バッターアウト!」
5回裏のウチの攻撃は頭崎の171キロ荒れ球ストレートの前に三者連続三振。
「オージロウさん。全然粘れなくて、休憩が短くてごめんなさいです〜」
この回最後の8番バッターひょ〜ろくくんが申し訳なさそうに話しかけてきたけど、そんなに落ち込まなくていいのに。
「ドンマイ! オレのことなら気にしなくていいって。それよりも次の回は相手も上位に回るから守備の方頼んだぜ」
「ハイです〜! どんなにオージロウさんが打たれてもぼくが全部アウトにしてやるです!」
どんなに打たれてもって……そこまで打たれるつもりはねえっての。っていうか全員三振に仕留めるのがオレの目標だ。
まあでも後輩が一生懸命フォローしてくれようとしているのだ。細かい言い回しは気にしないで笑顔で答えてやらねば。
「おうよ! その意気でヨロシクな!」
「任せろ、です〜!」
さて、後輩と気持ちが通じ合ったところでマウンドへ行くか。
それにしてもこの試合、ここまでかなりペースが早い。というかスコアも1−1というロースコアでの競り合い。
試合前の予想では打撃戦で結局は浪速筋高校が押し切るだろうっていうのが大半だったから、全く真逆の展開じゃん。
それにオレがそんなに打たれるわけないだろう。まあ予想は予想にしか過ぎない。
オレも頭崎も170キロ台まで出るようになるなんて、それこそ当人であるオレ自身がそこまで考えてなかったし。
だが頭崎にとってはそうではないと思うけど。オレに先を越されてるし。
まあなんにしても、ここまでの展開は実はウチにとって有利に運んでるってことだな。
勝利の女神は我らが5校連合チームに微笑んでいるのだ……と、ここで不意に女神姿で頭に思い浮かんだのは姉ちゃんであった。
うーん。まあ身近な人物だから思い浮かんだんだろうけど、普段の言動的には女神じゃねーな。
むしろ破壊神の方が似合ってる……クククッ。おっと、もちろん姉ちゃんの前では言わないけど。
そういや姉ちゃんたちの動きは……アルプススタンドを見上げるも、やっぱり動きなし。
今日はもう来ないのかな、兄ちゃんは。せっかく出せるようになった170キロ台ストレートを見てほしいのになあ。
「オージロウ! 上級生が打席に立とうとしているのに上の空とは、全くどこまでも礼儀をわきまえん奴じゃい! かー………」
またハリーか。うっとうしいなあ。
そしてまたまた喝じゃ! と叫ぶかと思ったら、途中でやめてしまった。
やっと理不尽な先輩風を吹かせるのをやめてくれたのか……と思ったが、次の瞬間にはあっさり裏切られた。まあこんなもんか。
「いや、お前に喝を入れるのは……この打席でちょっと速いだけのストレートをスタンドに放り込んでからじゃい! 前の打席の借りを返して、調子に乗っとるお前に身を持って喝を入れてやらねばならん!!」
なんだとこの野郎……ハリーには絶対、借りなんか返させねえ。試合終了まで積み重ねさせてやらあ。
ちょっと中だるみしそうな試合展開だったが、思わずボールを握る左手に力が入っちまったぜ……!
<あとがき>
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