第59話 アッパースイングと読み合い
「うりゃあああっ!!」
「だりゃあああっ!!」
ズバンッ!!
「ストライク! カウント0−2!」
「スゲー! オージロウが170キロ連発で追い込んだああ〜!」
「頭崎でも全然バットに当たらんとは……!」
3回表、浪速筋高校の攻撃はツーアウトでランナー二塁。
そしてバッターは相手先発ピッチャーでもある頭崎。
ここまでの2球は空振りさせているものの、とんでもない勢いのアッパースイングを見せつけられている。
もしまともに当たればオーバーフェンスしそうだなあ。そう思わされる程力強い、マウンドまで風圧が来そうなスイングなのだ。
「スンマセン審判。タイムですわ」
追い込まれた頭崎がタイムを取って、こちらもひと息。でも勢いが削がれたみたいでやな感じだなあ。
というかそれが狙いだよな。だがそっちの思い通りにはならんぞ。
それにしても、こちらに背を向けてバッティンググローブをはめ直している頭崎を改めて眺めると……僧帽筋とか三角筋とか広背筋だっけか。
背中側の筋肉の盛り上がりもなかなかえげつない。ユニフォームを脱いだら『オーガ』の顔でも浮かび上がるんじゃないか?
そこまではいかなくても、169キロの荒れ球と強烈なアッパースイングを生み出す要因のひとつではあるのだろう。
「オージロウ! 次も今の調子で! あのボールなら必ず打ち取れるから!」
しょーたがこちらへ3歩近づいてから返球してきた。この野郎、ハリーの打席では敬遠のサインを出してきたくせにコロッと態度変えやがって。
まあでもしょーたが捕球してくれるから思う存分投げれるんだし、ここは文句言わずに投げてやろうじゃないの。
さて、頭崎が右打席に入り直す……のはいいが、またなんか言ってきた。
「ワシは認めへんで……必ず出塁して点に繋げて、お前の170キロはまやかしやって証明したる。ほいでワシが改めてお前に見せつけたるわ。ホンモノの170キロがどんなモンかをなあ!」
まだこだわってんのか。オレに先を越されたのがよっぽど悔しいんだろうけど、事実は意地を張らずに認めるべきじゃないかなあ。
と言って聞く耳を持つヤツなら苦労しない。
つまり力でねじ伏せるしかない……そしてプレーは再開した。
一応は二塁ランナーを目で牽制して。
力感のない動き出しから、テイクバックをできるだけコンパクトに。
最後は鞭の先端のように左手を振り抜く!
「うりゃあああっ!!」
「外角高め……このスイングでどないや! だりゃあああっ!!」
ズバンッ!!
「ス……」
「あっ! しまった!!」
「隙ありや! やっぱまやかしやったのう! カカカッ!」
しょーたの叫び声……ミットに収めかけたボールを弾いて、バックネット方向へ逸らしちまった。
と同時に頭崎がバットを放り出して一塁へと猛ダッシュだ。
「おっしゃあ! 振り逃げ上等や!」
「ヤバいぞ、二塁ランナーが一気にホームまで来るかも」
スタンドが騒がしくなってきた。オレも急いでホームのカバーに行かないと。
しょーたは……なんとか追いついたようだ。ボールを右手に掴んで、いつでもこっちに投げられる構えを見せつつ駆け足で戻ってくる。
「す、すまないオージロウ。せっかくの三振が」
「そんなのはいいよ。それよりもまた突き指とかなってるんじゃないのか?」
「いや、それは大丈夫。強烈なスイングでボールを一瞬見失って、見えた瞬間に捕りにいったけどノビがすごくて捕りきれなかった」
「ええ……それじゃ全力で投げるの控えたほうがいいか」
「いやいや、今度は捕るから! 身体で止めてでも! だから気にせず投げてくれ」
そう言われてもなあ。
そしてこういう場面で最も迎えたくない男、クラッチヒッターの3番バッター串島が右打席に入りながら煽ってくる。
「うふふ。オージロウくんの全力のボール、どないして当てようかって悩んでたけど。むしろなんもせん方が良さそうやねえ!」
この野郎! オレが全力で投げにくいようにプレッシャーかけてきやがって。
どうしようかな。
後逸するリスク覚悟でコーナーに全力で投げ切るか。
ボールの威力を信じて甘いコースに全力投球するか。
程々に抑えたボールをコーナーに投げるか。
最後のは言うほど簡単じゃないし、球速と威力が落ちると当てられたらヒットになるかも。
しょーたのサインは……そうきたか。
それじゃ初球行くぜ。覚悟を決めて、なおかつ神経を研ぎ澄ませて、全力で投げ込む!
「うりゃあああっ!」
「いきなり来たか内角高め……ちええいっ!」
ズバンッ!
「ストライク!」
「今度は逸らさず決まった171キロ〜!」
「きゃ〜! クシジマくん、もうちょっとで当たりそうだったのに〜!」
串島には相変わらず女子の黄色い声援が目立つ。そして彼女たちの言うとおり、さっきは結構ギリギリだった。
甘いコースに投げるのを待ってるかと思いきや、裏をかいてコーナーに……オレが決め球にしてる内角高めに来ると読んでた。
170キロ台といえども読み通りのコースで待ち構えていれば、高校球児だって当てられないわけじゃない。
まあ空振りさせたんだから必要以上に気にしても仕方がないけど。そして2球目は……。
「ふん! ミエミエやでえ〜!」
「ボール!」
うーん、真ん中高めの釣り球には引っかからなかったか。
しょーたはあらかじめ立ち上がって構えて逸らさないようにしたので、その点では安心して投げたのだが……そうするとなんとなく気配で読まれちゃうよね。
さて、あまりボール球を先行させたくはないのだが。
次は、そう来るか。危険だけどしょーた自身がやってることだ、自信があるのだろう。
外角にあらかじめ構えたしょーたのミットを見ながら……3球目を投げ込む!
「うりゃあああっ!」
「おおっ!? 違うやんけ!」
ズバンッ!!
「ストライク! カウント1−2!」
「うっしゃああ! 内角低めにズバッとクロスで決めた!」
「またあんなコースに! クシジマくんに当てたら許さないから!」
あー、女子たちからは非難轟々だ。
外角と見せかけて内角……踏み込みかけた串島は思わずオーバーリアクションで避けたから余計に危なく見えたのだろう。
やっぱり串島は読みだけでなくオレの視線の動きか、キャッチャーの動きを気配で察しているみたいだ。武道経験者だからかどうかは知らんけど。
それを逆利用したのだが、オレの方も疲れる。視線をギリギリまで変えずミットと違う方へ投げるのは集中力を消耗した……しょーたも逸らさないように懸命に身体を動かしてキャッチしてたし。
というわけで次でトドメを刺したい。
次は……一見破れかぶれだが、さっきので串島の読みにも迷いが出るはず。
それじゃ行くぜ!
「うりゃあああっ!!」
「ここでド真ん中やと!? さすがにナメ過ぎ……ちええいっ!!」
ズバンッ!!
「ストライク! バッターアウト!」
「きたああ! 高めに伸び上がっていく171キロが!」
「クシジマくんを三振にさせるなんて! あのピッチャー絶対に許せない!」
結局女子たちからは嫌われたか、トホホ。
だけど真ん中から高めにまでホップしてノビるストレートを思う存分に投げられた……気持ちいい!
ピンチを無失点で凌いで、今度こそこっちの反撃だ!
<あとがき>
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次回更新は7月13日(月)の予定です
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