第56話 ブレる
「しょーたぁ! ちょっとさあ、アッサリやられ過ぎじゃねーの?」
浪速筋高校との準決勝、1回裏でウチの攻撃中。
阿戸さんに続いて三球三振に倒れたしょーたは打席からトボトボと引き上げてくる。
さすがにこれは酷くないか? と、ちょい強めに聞いてみたのだが。
「そんなこと言ったってさ。ボールが出たあとに位置がブレるんだよ」
「えっ? ここまでストレートだけなんじゃないの?」
「そうだよ、ストレートだけ。とにかくさ、自分で実際に打席で見てみろよ。そしたらわかるから」
しょーたは事実をそのまま言ってるんだとは思う。
だが説明の仕方が相変わらず下手というか。相手に伝わるように咀嚼してくれないんだよな。
などと自分を棚に上げつつブツブツ言いながら左打席に立つ。それにしてもなんか妙に圧を感じる……。
「オージロウくん! その身体のサイズで俺より飛ばすらしいやん。尊敬するで!」
相手キャッチャーの『浪速筋のド◯ベン』阿波がなんか話しかけてきた。身体の横幅があるせいか近くに感じるっていうか、これが圧の正体だな。
なんか呟いてオレのペースを乱そうってか。素朴で人懐っこい笑顔を見せるからって油断しないぞ。
「そりゃどうも。もういいっすか?」
「なんやしょっぱいなあ。そんな警戒せんでも、俺は口下手やし『ささやき』とか、そんなんでけへんから」
「ははは、できる人ほどそうやって謙遜するんですよね〜」
「ああ、今まで散々ダマされてきたんやろなあ。可哀想に」
「ほっといてくださいよ」
「そやね。そろそろウチのゆっきーがキレそうやし」
ゆっきー……ああ、頭崎のことか。確か下の名前はユキオ。コワモテの本体とはやたらギャップがある呼び名だ。
って、キレそうだと?
「ワシを無視してお喋りとは、ええ度胸しとるのう……!」
げえっ!
めっちゃ睨まれてる……前は向いてたけど意識は阿波の方に行ってて気が付かなかった。
やっぱダマされた……何が口下手だ、阿波のヤロー!
だが嘆いている暇は無い。慌ててグリップを握り直す。
頭崎はもう初球を投げようとしているのだ!
「打てるもんなら打ってみさらせ! だりゃあああっ!!」
スリークォーターだがオレよりもリリースポイントが低い……左バッターへ突き刺すかのようなクロスの内角高め。
ボールくさいがオレの大好物なコース! もらったあ!!
「うりゃあああっ!!」
ズバンッ!!
「ストライク!」
「いきなり169キロ! ええぞ頭崎ィ〜! このまま三者連続三振や!!」
「オージロウが珍しくボールと離れたトコ振ってた! 見えてないのか?」
んなバカな。オレは確かに捉えた筈なのに。
呆然としていると、後ろからボテッと何か落ちた音が。
「アタタ……ゆっきーがおもくそ全力で投げたら、俺では捕りきれんのや」
地面に落ちていたのはやはりボール。そして半立ち状態の阿波が右肩のプロテクター付近をさすっている。
まさかコイツ、身体であの剛球を止めたのか。
でも驚いてる暇は無い。2球目がもう来る!
「だりゃあああっ!!」
今度は外角ベルトの高さ……ボール球っぽいけど!
「うりゃあああっ!!」
ボゴォッ!!
「……ストライク! カウント0−2!」
「もう追い込んだ! やっぱ頭崎の方が上や!」
「なんとか打ち返してくれオージロウ!」
またもや阿波は捕球できずに身体で止めたらしい。いちいちスゴい音がするか怖えよ。
それにしても、しょーたの言ってたことがようやく理解できた。
本当にブレてるのだ。ストレートが。
早い話、ムービングボールなんだろう。オレみたいにキレイなバックスピンじゃなくて回転軸とか縫い目がズレてるとかの。
その上169キロの剛球……。
パッとリリースされた瞬間にイメージできないと、わかってても軌道とは違う場所を振ってしまう。
2球目も阿波がさすってる箇所から推測すれば、外角いっぱいで膝上の高さに決まってたと思う。
それを踏まえて3球目はどう打つか。
もし意図的にコースを投げ分けられないのだとしたら、甘く入ってくるのを期待して待つ方が打てる確率は高まる。
でも今日は絶好調らしいからコースいっぱいにビシバシ決まりそうだ。
というわけで、あらかじめイメージしておく。
そしてテンポ良く3球目の投球モーションに入る頭崎。
っていうかコイツらサイン交換してないんじゃないか?
そりゃあ捕れないはずだ……いや、どうせブレるから意味ないのか。
まあどうでもいい。ボールを捉えることに集中!
「これでくたばっとけェ!! だりゃあああっ!!」
真ん中高めギリギリだと……内と外、どっちにブレる!?
「うりゃあああっ!!」
バッッコーーンッ!!
「い、痛ってええっ! 両手がぁ!!」
思わず声が出るほど痺れた。
なぜならバットの芯をやや外してる。それにしても威力が半端ねーな、頭崎のストレート。
だがシュート回転して外へ逃げていくのを捉え、広角に左中間方向へ弾き返した。
あとは力ずくでスタンドへ放り込むのみ。それだけのパワーを込めて振り抜いたのだ。
甲子園の深い左中間に向かって、頂点に達した放物線が落ちていく。
本当にフェンスギリギリって感じだけど、届く手応えはあった。
それじゃ走り出しますか。眺め続けると高校球児が確信歩きとはケシカランとか叩かれるかもしれん。
んっ?
落下予測地点のフェンスに誰か……既によじ登ってグラブを構えてる、だと!?
パシィッ!!
「アヒョオオッ! 捕ったったでぇ〜!!」
「アウト!」
「出たあー! 『魔術師』低井田のホームランキャッチやあ!!」
「そ、そんな〜!!」
嘘だろ……オレのホームランが……!
<あとがき>
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